【弁護士解説】法務は「AI」でサボれ。ベンチャー企業こそ導入すべき、リーガルテック活用の未来地図

alt="記事「【弁護士解説】法務は「AI」でサボれ。ベンチャー企業こそ導入すべき、リーガルテック活用の未来地図」のアイキャッチ画像。リラックスした様子の弁護士が、コーヒーを片手に「未来地図」と書かれたホログラムを操作しているイラスト。その背後では、AI(人工知能)の光る手が山積みの契約書や書類を高速で処理しており、リーガルテックによる業務効率化と法務の未来を表現している。" ベンチャー法務とは
弁護士町田北斗

ベンチャー起業の法務を専門とし、社内弁護士として企業の成長を法的側面から支えています。
当サイトでは、単なる事務処理ではない「経営に貢献できる法務」になるための実務ノウハウを公開。
契約書審査からIPO準備、労務戦略まで、現場で本当に役立つ「攻めと守りのリーガルビジネスマインド」をお伝えします。

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「法務の仕事はAIに奪われるのか?」

私の答えは、YESでもありNoでもあります。
AIを使えない法務アシスタントは、AIに仕事を奪われる」**が正解でしょう。

AIの登場により、単なるアシスタント業務を行う社員は不要になります。
裏を返せば高度な法務戦略を担える者のみが生き残る世界になります。

そのため、法務を目指す以上、単なるアシスタントを早々に卒業することが絶対命題であり、常に学び続けるというマインドが必要です。

今回は、ベンチャー法務が導入すべきAI活用の具体策と、それによって生まれる「新しい法務の価値」について解説します。

AIの進化により、法律実務は飛躍的に効率化しています。
契約書、利用規約、プライバシーポリシー、業務規程等の作成は、従来の10分の1以下になっています。
業界の専門知識も、AIから短時間でレクチャーを受けることができます。
他方で、AI活用のリスクも存在しており、本記事では、その対策を紹介します。


1. なぜベンチャー法務にAIが不可欠なのか

大企業には豊富な法務部員がいますが、ベンチャーは「一人法務」や「兼任法務」が当たり前です。
だからといって、ビジネスの成長スピードは待ってくれません。

ここでAIを導入することは、**「24時間365日文句を言わずに働く、最強のアシスタント(法務助手)」**を雇うのと同じ意味を持ちます。

AIが得意な業務の例

  • 契約審査の一次チェック
  • 条文のドラフティング(起草)
  • 英語契約の翻訳
  • リーガルリサーチ
  • 業界の専門知識
  • 法改正の概要
  • 判例調査

これらをAIに任せることで、人間は「最終判断」と「ビジネス部門との対話」に全リソースを注げるようになるのです。

2. 今日から使えるAI活用術

では、具体的にどのようなシーンでAIが役立つのでしょうか。最新のリーガルテック事情も踏まえて解説します。

① 契約書の一次レビュー

「秘密保持契約書(NDA)」や「業務委託契約書」などの定型的な契約において、AIの右に出るものはいません。 ファイルをアップロードするだけで、数秒で以下のような問題点を指摘してくれます。

  • 自社に不利な条項のハイライト
  • 誤記
  • 欠落している重要条項の指摘
  • 修正案の提示

活用ポイント: AIに一次レビューさせて、Wチェックとしてレビューを行います。AIと人間という複数の視点でレビューできるので、レビューの質が上がります。

② 条文作成・壁打ち

生成AI(LLM)は、ゼロから文章を作るのが得意です。
「〇〇のサービス規約において、ユーザーの禁止行為に『リバースエンジニアリング』を追加したい。少し威圧感を抑えたトーンで条文案を3パターン作って」 と指示すれば、一瞬でたたき台が出てきます。

活用ポイント: 思考が煮詰まった時の**「壁打ち相手」**として使うと、自分では思いつかなかった視点(リスク)を提示してくれることがあります。

③ 法令・判例リサーチ

膨大な条文やガイドラインの中から、必要な情報を探し出す作業もAIの得意分野です。
最近では、特定の法律データベースを学習させた法務特化型AIも登場しており、「〇〇法の改正ポイントを要約して」といった指示で、リサーチ時間を数時間から数分に短縮できます。


3. AIには絶対にできない「法務の聖域」

ここまでAIの凄さを語りましたが、弁護士として断言できることがあります。
「責任を取ること」「背景を読むこと」は、人間にしかできません。

① ビジネスの「行間」を読む交渉

契約書上は不利な条件でも、「将来的に大きな取引につながるから、今回はあえて飲む」という戦略的な視点をもった判断は、AIには不可能です。
相手方の顔色を読み、落とし所を探る**「交渉(ネゴシエーション)」**こそが、人間の法務に残された最大の付加価値です。

② ハルシネーション(嘘)の見極め

現在のAIは、もっともらしい顔をして嘘をつく(存在しない判例を捏造するなど)ことがあります。 出力された内容が本当に正しいか、裏取りをして**「Goサイン(決裁)」を出す責任**は、最後にハンコを押す人間にあります。

③ リスクの測定と長期的視点の欠如

AIは、リスクの存在を指摘することはできますが、リスクを測定することはできません
つまり、特定のリスクについてどの程度の発生確率があるかというのは、業界や企業が置かれた立場などの具体的な背景を考慮する必要があります。
このようなリスク測定は、AIには絶対に代替されることはありません。

また、リスクが高くても、将来を見据えてGOしなければならないこともあります。このような長期的な視点をもった判断はAIが行うことは困難です。

4.AIに任せたら危険な法務業務 5選:プロが警鐘を鳴らす「落とし穴」

近年、ChatGPTをはじめとする生成AIの進化により、契約書のドラフト作成や条文検索が劇的に簡単になりました。「法務もAIに任せれば、弁護士費用を削減できるのでは?」と考える経営者の方も少なくありません。

しかし、AIには**「致命的な弱点」**があり、法務のすべてを任せることは企業の存続に関わるリスクになり得ます。


NGその1. 判例・法令の調査(リーガルリサーチ)

もっとも危険性が高く、かつAIが「もっともらしく嘘をつく」領域です。

  • なぜ危険なのか:生成AIは「確率的にありそうな文章」をつなげているだけで、真実を理解しているわけではありません。実際に存在しない判例や、すでに改正されて無効になった法令を「現行法」として回答する**「ハルシネーション(幻覚)」**が起こります。
  • 実際のリスク:実際にアメリカでは、弁護士がChatGPTを使って作成した書面に「架空の判例」が含まれており、裁判所から罰則を受けた事例があります。プロの視点:AIはあくまで「ヒント出し」のツールです。最終的な裏付け(Source Checking)は、必ず専門家が一次情報(官報や判例集)に当たって行う必要があります。

2023年、米国NY州の航空機訴訟にて、スティーブン・シュワルツ弁護士が裁判所から制裁を受けました。

彼らはChatGPTを用いて準備書面を作成しましたが、そこにはAIが捏造した**架空の判例(Varghese事件等)**がもっともらしく引用されていたのです。判事は、基本的な事実確認を怠ったとして弁護士らに5,000ドルの制裁金を命じ、法曹界にAI利用のリスクと裏付け調査の重要性を突きつけました。

【対策】
‣判例は、裁判所の公式ページで必ずチェックする。
‣法令は、原文を必ずチェックして、かつ複数のAIツールで、要約に間違いがないかチェック。

NGその2. 紛争・トラブル発生時の「初期対応」と「交渉戦略」

クレーム対応や契約違反の通知など、トラブルの火種が生まれた瞬間の対応です。

  • なぜ危険なのか
    紛争解決には「法律論」だけでなく、「相手の感情」や「落としどころ」を読む力が必要です。AIは正論を吐き出すのは得意ですが、**「あえて相手の顔を立てて、早期解決を図る」**といった戦略的な判断ができません。
  • 実際のリスク
    AIが作成した「論理的だが冷淡すぎる回答書」を相手に送った結果、相手の怒りを買い、本来なら話し合いで済んだ案件が泥沼の訴訟に発展するケースがあります。

【対策】
・人間によるWチェックを行う。(経緯を知らない者にみてもらい、読み手の印象を確認する)

NGその3. 「自社のビジネスモデル」に特化した利用規約の作成

テンプレート的な契約書ではなく、その会社独自のサービスに関する規約です。

  • なぜ危険なのか
    ベンチャー企業の場合、ビジネスモデル自体が新規性に富んでおり、既存の法的な枠組み(ひな形)に当てはまらないことが多々あります。AIは過去のデータ(一般的なひな形)から学習しているため、**「御社独自のビジネスリスク」**を想像して条項を追加することはできません。
  • 実際のリスク
    例えば、CtoCのマッチングサービスなのに、一般的なBtoBの売買契約の条項をAIが引用してしまい、「プラットフォーマーとしての免責」が機能せず、巨額の賠償責任を負う可能性があります。

【対策】
・競合他社の利用規約との相違点を確認する。
・サービス内容を把握している担当者と一文ずつ確認して、実際の業務と乖離していないか確認する。

NGその4. コンプライアンスの「グレーゾーン」判断

「この広告表現は景表法に違反するか?」「このビジネススキームは業法に触れるか?」といった判断です。

  • なぜ危険なの
    法律の世界には、白(合法)と黒(違法)の間に広大な**「グレーゾーン」**が存在します。AIは「法文上どうか」は答えられますが、「今の行政の取り締まりトレンド」や「レピュテーションリスク(炎上リスク)」までは考慮できません。
  • 実際のリスク
    AIが「法的には明記されていないので問題ない」と回答したとしても、実務上は行政指導の対象になったり、SNSで炎上してブランド毀損を起こしたりすることがあります。リスクの「許容範囲」を決めるのは、AIではなく経営判断です。

【対策】
・経済産業省・消費者庁のグレーゾーン解消制度などを活用する。(行政機関の回答を100%そのまま信用して良いわけではありませんが、信頼性は高い)

NGその5. M&Aや資金調達におけるデューデリジェンス(最終判断)

大量の契約書を読み込ませて「リスクを洗い出す」作業自体はAIが得意ですが、その結果をどう評価するかは別問題です。

  • なぜ危険なのか
    AIは「チェンジオブコントロール条項があります」と指摘はできますが、**「この条項があることで、今回の買収交渉においてどれだけ価格交渉の材料にできるか」**というビジネスインパクトまでは計算できません。
  • 実際のリスク
    些末なリスクと致命的なリスク(Deal Breaker)をAIが同列に扱ってしまい、重要な欠陥を見落としたまま買収を実行してしまう恐れがあります。

【対策】
・リスクの発生確率などのリスク測定については、事業部責任者やサービス担当者の意見をヒアリングする必要があります。


AIと人間の役割分担:比較表

業務プロセスAI(ツール)人間(弁護士・法務)
0→1のドラフト作成◎ 得意(時短になる)△ 時間がかかる
誤字脱字・表記ゆれ◎ 得意◯ 確認は必要
事実関係の裏付け× 危険(ハルシネーション)◎ 必須業務
戦略・交渉判断× 不向き最大の付加価値
責任を持つこと× 不可能◎ 専門家の責任

まとめ:AIは「優秀な助手」、ハンドルを握るのは「人間」

AIは、法務業務を劇的に効率化する「優秀なパラリーガル(助手)」にはなり得ますが、最終的な責任を負う「パートナー(専門家)」にはなり得ません。

特にリソースの限られたベンチャーこそ、**「作業はAIで効率化し、判断には専門人材の知見を活用する」**というハイブリッドな体制が、最もコストパフォーマンスの高い法務戦略となります。

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