【弁護士直伝】新規事業を潰さない「適法性リサーチ」の教科書。グレーゾーンを突破する法務の思考法

alt="記事「【弁護士直伝】新規事業を潰さない「適法性リサーチ」の教科書。グレーゾーンを突破する法務の思考法」のアイキャッチ画像。スーツを着た弁護士がコンパスを持ち、「グレーゾーン」という暗い雲を突き抜けて「適法性」の街へ向かう「新規事業」ロケットを指し示しているイラスト。背景には歯車やデジタル回路が描かれ、法務の思考法と進むべき道を表している。" ベンチャー法務とは
弁護士町田北斗

ベンチャー起業の法務を専門とし、社内弁護士として企業の成長を法的側面から支えています。
当サイトでは、単なる事務処理ではない「経営に貢献できる法務」になるための実務ノウハウを公開。
契約書審査からIPO準備、労務戦略まで、現場で本当に役立つ「攻めと守りのリーガルビジネスマインド」をお伝えします。

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「この新しいビジネスモデル、法律的に大丈夫ですか?」

ベンチャー企業の法務担当者になると、経営陣や事業部から必ずこの質問が飛んできます。
既存のビジネスであれば、検索すれば解決するかもしれません。
しかし、世の中にない新しいサービスを作る時、答えはどこにも書いてありません。

ここで「前例がないのでリスクがあります」と答えるだけの法務は、これからの時代、AIに取って代わられます。
求められているのは、**「どうすれば適法に実現できるか」**を導き出す力です。

今回は、新規事業における「適法性リサーチ」の手順と、グレーゾーンとの向き合い方について解説します。


  1. いきなり条文を引かない。「ビジネスの解像度」を上げる
    1. 1. IT・Webサービス・SaaS領域
    2. 2. Eコマース・D2C・小売領域
    3. 3. フィンテック(FinTech)領域
    4. 4. 人材・HR Tech領域
    5. 5. 先端技術・その他注目領域
  2. リサーチの「深さ」が勝負を決める
    1. ① 法令(法律・政令・省令)
    2. ② ガイドライン・監督指針
    3. ③ パブリックコメント・過去の摘発事例
    4. 条文だけでは答えは出ない。プロの思考プロセスを追体験する「3つの実践ケーススタディ」
      1. 【実例1】マーケティング法務:インフルエンサー活用とステマ規制
      2. 【実例2】契約法務:SaaS利用規約における「損害賠償の上限」
      3. 【実例3】事業開発法務:新規Webサービス(CtoCマッチング)
  3. 白黒つかない時の最終兵器「グレーゾーン解消制度」
  4. 違法と判断された新規事業の失敗事例3選
    1. 失敗事例1:Uber福岡実証実験(2015年)
      1. なぜ「違法」と判断されたのか?(法的論点)
        1. 道路運送法 第78条(有償運送の禁止)
        2. Uber側のロジック vs 国交省のロジック
      2. 法務担当者がここから学ぶべき教訓
        1. ① 「ロジック」だけでは「運用」を突破できない
        2. ② 「事前の握り(ネマワシ)」の重要性
      3. その後の展開と現在の法務トレンド
    2. 失敗事例2:Fintechの闇「給料ファクタリング事件」(2020年頃)
      1. どのようなビジネスだったのか?
      2. 司法・行政の判断(ファクタリング事業者の完全敗北)
      3. 法務への教訓:形式より「経済的実態」
    3. 失敗事例3:ゲーム業界の衝撃「コンプガチャ事件」(2012年)
      1. どのようなビジネスだったのか?
      2. 行政の判断(景品表示法違反)
    4. 【新規事業が「違法」と判断された事例・規制一覧表】
  5. まとめ:「止める法務」から「創る法務」へ

いきなり条文を引かない。「ビジネスの解像度」を上げる

多くの法務初心者は、相談を受けるとすぐに「Google」や「法令検索」を開こうとします。
しかし、それは間違いです。
まずは、そのビジネスが**「誰から誰に何が提供されどこでマネタイズするのか」**を完全に理解する必要があります。

  • ユーザーからお金を預かるのか?(資金決済法?)
  • 他人の商品を代わりに売るのか?(仲介?代理?委託?)
  • 在庫を持つリスクは誰が負うのか?

ビジネスの構造(スキーム)を分解することで初めて、「あ、これは『旅行業法』に引っかかるかもしれない」「これは『金商法』の規制範囲外だな」という当たりをつけることができます。


1. IT・Webサービス・SaaS領域

多くのスタートアップが属する領域です。形のないサービスを提供するため、契約書(利用規約)の作り込みと、データの取り扱いが肝になります。

ビジネスモデル具体例必須・関連法令法務の実務ポイント
BtoB SaaS勤怠管理システム、会計ソフト、マーケティングツール個人情報保護法
不正競争防止法
著作権法
・利用規約、SLA(サービスレベル合意書)の作成
・ユーザーから預かるデータの権利関係の整理
BtoC プラットフォームマッチングアプリ、スキルシェア、予約サイト特定商取引法
消費者契約法
プロバイダ責任制限法
出会い系サイト規制法(該当する場合)
・CtoC間のトラブルにおけるプラットフォームの責任範囲の明確化
・消費者保護の観点からの規約レビュー
アプリ・ゲームソーシャルゲーム、スマホアプリ資金決済法(前払式支払手段)
景品表示法
電気通信事業法
・「ガチャ」等の表示規制(景表法)
・アプリ内通貨の発行に伴う供託義務の管理(資金決済法)

2. Eコマース・D2C・小売領域

モノを売るビジネスは、消費者保護の規制が非常に厳格です。マーケティング(広告)に関連する法規制の知識が直結します。

ビジネスモデル具体例必須・関連法令法務の実務ポイント
D2C / Eコマースアパレル、雑貨、食品の自社EC販売特定商取引法(返品特約など)
景品表示法
電子契約法
PL法(製造物責任法)
・LP(ランディングページ)や広告バナーのリーガルチェック
・返品、交換ルールの明記
・インフルエンサーマーケティングのステマ規制対応
健康食品・化粧品サプリメント、コスメの販売薬機法(旧薬事法)
健康増進法
食品表示法
・「効果効能」の表現範囲の厳格な審査
・パッケージ表示の法的確認
※この分野は非常に専門性が高く、市場価値が高いスキルです。

3. フィンテック(FinTech)領域

金融とITを掛け合わせた領域です。規制産業であるため、法務部門が事業のブレーキ役ではなく「どうすれば適法に実現できるか」を考えるエンジンの役割を果たします。

ビジネスモデル具体例必須・関連法令法務の実務ポイント
決済・送金・暗号資産QRコード決済、家計簿アプリ、仮想通貨取引所資金決済法
銀行法
金融商品取引法
犯罪収益移転防止法
・金融庁への登録・届出業務
・本人確認(KYC)フローの構築
・マネーロンダリング対策(AML)
クラウドファンディング購入型、融資型、株式投資型クラファン金融商品取引法
貸金業法
特定商取引法
・投資家保護の仕組み作り
・プロジェクトオーナー審査基準の策定

4. 人材・HR Tech領域

「働き方改革」や人手不足を背景に伸びている分野です。労働法規の知識はもちろん、個人情報の取り扱いが極めてセンシティブです。

ビジネスモデル具体例必須・関連法令法務の実務ポイント
人材紹介・派遣転職エージェント、スカウトサービス職業安定法
労働者派遣法
労働基準法
・職業紹介事業の許可申請・更新
・求人広告の適法性チェック(虚偽記載の防止)
フリーランス活用副業マッチング、業務委託仲介下請法
フリーランス保護新法(2024年施行)
労働基準法(偽装請負対策)
・業務委託契約書の適法性確保
・下請法や新法に基づく支払期日、発注書面の管理体制構築

5. 先端技術・その他注目領域

ルールがまだ定まっていない、あるいは既存のルールと衝突する領域(グレーゾーン)です。

ビジネスモデル具体例必須・関連法令法務の実務ポイント
メドテック・ヘルスケアオンライン診療、医療AI医師法
薬機法
医療法
・「医療行為」と「ヘルスケアアドバイス」の境界線の策定
・オンライン診療のガイドライン遵守
不動産テックスマートホテル、民泊、不動産クラウドファンディング宅地建物取引業法
住宅宿泊事業法(民泊新法)
旅館業法
・電子契約解禁に伴う業務フローの再構築
・重要事項説明のオンライン化対応

リサーチの「深さ」が勝負を決める

当たりがついたら、実際の規制を調査します。
しかし、法律(条文)だけを見ても実務の答えは出ません。プロの法務は、以下の**「3層構造」**でリサーチを行います。

① 法令(法律・政令・省令)

まずは大原則です。条文の定義に該当するかを確認します。しかし、新しいビジネスは条文が想定していないことがほとんどです。

② ガイドライン・監督指針

各省庁が出している「ガイドライン」や「Q&A」です。ここには、条文よりも具体的な解釈基準が書かれています。ベンチャー法務では、ここが宝の山になることが多いです。

③ パブリックコメント・過去の摘発事例

「過去に似たようなサービスが規制された事例はないか?」あるいは「法改正の議論の過程(パブコメ)で、類似の論点が議論されていないか?」を掘り下げます。ここまで調べて初めて「適法性の輪郭」が見えてきます。

条文だけでは答えは出ない。プロの思考プロセスを追体験する「3つの実践ケーススタディ」

【実例1】マーケティング法務:インフルエンサー活用とステマ規制

BtoC企業で頻繁に相談される「広告・宣伝」に関するリサーチ例です。ここでのポイントは、「法令の定義」だけではグレーゾーンの判断がつかないため、運用基準を徹底的に読み込むことです。

リサーチ階層調査対象法務としての具体的アクション
① 法令
(大原則)
景品表示法
(不当景品類及び不当表示防止法)
条文にある「不当な表示」の定義を確認する。
しかし条文には「ステマ」という単語はなく、抽象的であるためこれだけでは判断できない。
② ガイドライン
(行政の解釈)
消費者庁
「ステルスマーケティングに関する告示・運用基準」
「事業者が第三者の表示に関与する」とは具体的にどういう状態かを確認する。
(例:インフルエンサーへの指示の有無、対価の有無など、具体的な判定フローをチェックする)
③ パブコメ・事例
(運用の実態)
過去の措置命令・課徴金事例実際に「どのような表現」で、どの程度の「関与」があった時に摘発されたかを調べる。
他社の「お詫びリリース」や摘発事例集から、行政が許容しないNGラインの相場観を掴む。

【実例2】契約法務:SaaS利用規約における「損害賠償の上限」

BtoBのITサービス(SaaS)で必ず議論になる「システムが止まって損害が出た場合、いくら払うか」という論点です。裁判例(第3層)まで調べることで、契約書のリスクヘッジが機能するかどうかが見えてきます。

リサーチ階層調査対象法務としての具体的アクション
① 法令
(大原則)
民法、消費者契約法「損害賠償責任を免除する条項」が有効か無効かを確認する。
消費者契約法8条や民法の定型約款の規定など、条文上の無効事由に該当しないかチェックする。
② ガイドライン
(行政・業界の解釈)
経済産業省
「電子商取引及び情報財取引等に関する準則」
利用規約でよく見かける「賠償額は利用料の○ヶ月分までとする」という上限設定が、実務上どの程度認められているか、経産省の見解(準則)を確認して正当性を補強する。
③ パブコメ・事例
(司法の判断)
実際の裁判例
(システム開発・障害関連)
過去の裁判で、企業側に「重過失」があると認定され、責任上限条項が突破(無効化)されたケースを調べる。
「何をやると重過失になるのか(=契約書で守りきれないのか)」という事実関係をエンジニア部門に共有する。

【実例3】事業開発法務:新規Webサービス(CtoCマッチング)

新しいビジネスモデルを立ち上げる際のリサーチです。既存の法律(業法)に当てはまらないケースが多いため、「法改正の議論プロセス」や「パブコメ」といった第3層の情報が、適法性を主張する武器になります。

リサーチ階層調査対象法務としての具体的アクション
① 法令
(大原則)
職業安定法 または 特定商取引法ユーザー同士を引き合わせる行為が、規制の厳しい「職業紹介」に該当するか否か、条文の定義を確認する。
(「紹介」とは何か? 「斡旋」とは何か? の定義にあたるか)
② ガイドライン
(行政の解釈)
厚生労働省
「民間企業が行うインターネットサービス情報の取扱に関するQ&A」
単なる「情報提供」と、規制対象となる「職業紹介」の境界線を探る。
(例:リコメンド機能の有無や、加工・編集の度合いによって判断が分かれる基準を読み込む)
③ パブコメ・事例
(議論のプロセス)
パブリックコメント
規制改革会議の議事録
新しいビジネスモデルに対し、行政側が「何を懸念して規制しようとしているか」を確認する。
過去に類似サービスに対して出されたパブコメ回答を探し、「このスキームなら規制対象外」という行政側の言質(根拠)を見つける。

白黒つかない時の最終兵器「グレーゾーン解消制度」

徹底的にリサーチしても、どうしても判断がつかない領域があります。それが**「グレーゾーン」**です。

ここで「リスクがあるのでやめましょう」というのは簡単ですが、それではベンチャーの存在意義がありません。ここで活用すべきなのが、国が用意している**「グレーゾーン解消制度」「ノーアクションレター制度」**です。

項目グレーゾーン解消制度ノーアクションレター制度
根拠法産業競争力強化法各省庁が定める手続規則
目的「具体的な事業計画」が規制対象になるかの確認「特定の行為」が不利益処分の対象になるかの確認
対象範囲事業全体(複数の省庁・法律にまたがる確認が可能)特定の法律・条文(所管官庁ごとの縦割り確認)
回答期間原則1ヶ月以内(法務省への照会含む)原則30日以内(ただし補正期間は含まれず長期化しがち)
利用資格新規事業を実施しようとする事業者誰でも(当該行為を行おうとする者)
公表原則公表(ただし、事業上の秘密は非公開にできる場合あり)原則公表(公表延期の相談可)
ベンチャー適性◎(非常に高い)△(限定的)

これは、企業が事業計画を作成し、所管官庁に対して**「このビジネスは、この法律の規制対象になりますか?」と公式に照会できる制度**です。

  • 回答が「規制対象外(シロ)」なら: 堂々とビジネスを開始できる。
  • 回答が「規制対象(クロ)」なら: ビジネスモデルを一部修正して、適法になるように再構成する。

このプロセスを通じて、「違法」を「適法」に変えるスキームを組み立てることこそ、新規事業担当法務の腕の見せ所です。

違法と判断された新規事業の失敗事例3選

失敗事例1:Uber福岡実証実験(2015年)

Uberは2015年2月、福岡市で一般のドライバーが自家用車を使って乗客を運ぶ「みんなのUber」という実証実験を開始しました。

  • 仕組み: ユーザーはアプリで配車を依頼。一般人のドライバーが自家用車で送迎する。
  • 対価: 建前上は「運賃」ではなく、ドライバーへのデータ提供料などの名目で金銭が支払われる仕組み(あるいは無料キャンペーン等)。

しかし、開始からわずか1ヶ月足らずで、国土交通省から**「道路運送法違反(いわゆる白タク行為)の疑いがある」**として行政指導を受け、実験は中止になりました。

なぜ「違法」と判断されたのか?(法的論点)

ここでの最大のハードルは、道路運送法です。

道路運送法 第78条(有償運送の禁止)

自家用自動車(白ナンバー)は、原則として、有償で人を運送してはならない。

日本の法律では、お金をもらって人を運ぶには、国の許可を受けた「緑ナンバー(営業用車両)」でなければなりません。これを無許可で行うのが**「白タク行為」**です。

Uber側のロジック vs 国交省のロジック
  • Uber側の主張(推測): 「これは運送契約ではなく、マッチングサービスである。また、試験的な取り組みであり、対価性は薄い(あるいはデータ提供への謝礼である)」
  • 国交省の判断: 「名目が何であれ、実質的に『移動の対価』として金銭のやり取りが発生している以上、それは有償運送である。許可なく行えば、安全性が担保できないため違法である」

結果として、国交省は**「実質的判断」**を重視し、即座にストップをかけました。

Uber側の主張は、法令を自社にとって有利に解釈したもので、当初からかなり無理がある主張といえます。しかし、当初からサービス提供しなければ日本版ライドシェアは無かったかもしれません。

法務担当者がここから学ぶべき教訓

この事例は、ベンチャー法務にとって「失敗の教科書」と言えます。学ぶべきポイントは2つです。

① 「ロジック」だけでは「運用」を突破できない

法務担当者はつい、「契約書の文言を『運賃』ではなく『謝礼』にすれば法律の文言に当たらない」といった形式的なロジックを組み立てがちです。
しかし、規制官庁(この場合は国交省)は、実態を見ます。
「人の命を預かる輸送」という重大なテーマにおいて、脱法的なスキームは通用しません。
法務は経営陣に対し、**「条文解釈だけでなく、規制当局が『何を守ろうとしているか(立法趣旨=安全確保)』を読み解く必要があります」**と進言すべきでした。

② 「事前の握り(ネマワシ)」の重要性

前回の記事で紹介した「グレーゾーン解消制度」などが十分に活用されていなかった(あるいは、当局との対話が不十分だった)可能性があります。
いきなりサービスを強行開始して既成事実を作る手法は、アメリカでは称賛されますが、日本では行政の態度を硬化させ、かえって規制緩和を遠のかせることがあります。

「ローンチ前に当局へ相談に行き、実証実験の枠組みを合意形成しておく」 これこそが、日本でイノベーションを起こす法務の正しい動き方です。

その後の展開と現在の法務トレンド

Uberはこの失敗から学び、戦略を転換しました。
「法規制と戦う」のではなく、「法規制の中でできること(タクシー会社との提携、Uber Eatsへの展開)」へピボットし、日本市場での地位を確立しました。

そして2024年、ついに日本でも条件付きで「ライドシェア」が解禁されました。 しかし、これは**「タクシー会社の管理下で行う」**という日本独自のルール(自家用車活用事業)です。

ここでも、**「完全な規制撤廃」ではなく「既存の法制度との調和」**が選ばれました。 この流れを読み、ビジネスモデルを適法な形に修正できる人材こそが、今求められる法務パーソンです。

失敗事例2:Fintechの闇「給料ファクタリング事件」(2020年頃)

数年前、「給料日前に現金が手に入る」という画期的なFintechサービスとして**「給料ファクタリング」**が急増しました。

どのようなビジネスだったのか?

  • 建前(法的構成): 「お金を貸す(貸金)」のではない。労働者が会社に対して持っている「給料をもらう権利(賃金債権)」を、業者が割引価格で「買い取る(売買)」サービスである。
  • 主張: 「売買契約だから、貸金業法の登録は不要だし、利息制限法の上限も関係ない(手数料が高くてもOK)」

司法・行政の判断(ファクタリング事業者の完全敗北)

2020年、最高裁および金融庁はこれを**「実質的には貸金である」**と断定しました。

  • 理由: 労働基準法には「賃金直接払いの原則」があり、業者が会社から直接回収することはできない。結局、労働者が給料を受け取った後に業者に支払う形になるため、経済的実態は「給料を担保にした貸付け」と同じである。
  • 結末: 貸金業法違反(無登録営業)および出資法違反(高金利)として、業者の摘発が相次ぎ、市場は完全に消滅しました。

法務への教訓:形式より「経済的実態」

この事例から学ぶべきは、**「契約書のタイトルを『売買契約』にしても、中身が『貸付け』なら、法は実態を適用する(潜脱行為の否定)」**という鉄則です。
新しいFintechスキームを検討する際、「形式上は法の抜け穴を通している」だけで安心していませんか? 裁判所は必ず「経済的実質」を見ます。

失敗事例3:ゲーム業界の衝撃「コンプガチャ事件」(2012年)

ソーシャルゲーム黎明期に莫大な収益を上げた**「コンプリートガチャ(コンプガチャ)」**も、法務の歴史に残る失敗事例です。

どのようなビジネスだったのか?

  • 仕組み: ガチャで「特定のアイテムA・B・C・D」をすべて揃えると、希少な「レアアイテムX」がもらえる仕組み。
  • 問題点: 射幸心(ギャンブル性)を過度に煽り、子供が高額課金をしてしまうトラブルが社会問題化。

行政の判断(景品表示法違反)

消費者庁は、この仕組みが景品表示法で禁止されている**「懸賞」**に該当すると判断しました。

  • 当時の業界の空気: 「デジタルの絵(データ)は『景品』ではないだろう」という甘い認識がありました。
  • 結末: 消費者庁が「違法」との見解を示したことで、ゲーム会社各社は即座にコンプガチャを廃止。株価が大暴落する事態となりました(「ガチャショック」)。
カテゴリ具体的な事例・サービス名ぶつかった「法の壁」なぜ「違法/NG」とされたのか?(ロジック)その後の結末・対応
シェアリング民泊(Airbnb等)
※法改正前
旅館業法「宿泊料を受けて人を宿泊させる」行為は、許可がない限り旅館業にあたる。自宅の一室でも反復継続すれば業法違反。【法改正】
実態に合わせて「住宅宿泊事業法(民泊新法)」が制定され、届出制で解禁された。
医療・ヘルスケアWELQ(DeNA)
キュレーションメディア
薬機法(旧薬事法)
著作権法
医師監修のない不正確な医療記事が大量掲載。記事内でサプリ等の効果効能を謳うことが広告規制違反の疑い。【撤退・監視強化】
サイト閉鎖。以降、Google検索アルゴリズム変更や、医療広告ガイドラインの厳格化につながった。
金融・決済VALU
個人価値の模擬株式化
資金決済法
金商法
個人の価値をビットコインでトレードする仕組みが、「仮想通貨交換業」や「証券取引」に該当する懸念。【撤退】
制度設計の甘さから売り逃げ(インサイダー的行為)が発生し炎上。法規制との折り合いがつかずサービス終了。
金融・決済割り勘アプリ(paymo等)
個人間送金
資金決済法「送金」を行うには銀行業または資金移動業の登録が必要。「収納代行」の建前で回避を試みたが、実質的な送金とみなされるリスク増。【ピボット・法改正】
サービス終了やPayPay等への統合。後に「100万円以下の少額送金」に関する規制緩和が進むきっかけに。
エンタメチケット転売サイト
(チケットキャンプ等)
迷惑防止条例
詐欺罪(共犯)
転売業者がBot等で買い占めたチケットの販売場所を提供。「転売の場を提供して利益を得る」ことが、不正転売の幇助とみなされた。【閉鎖・新法制定】
サイト閉鎖。その後「チケット不正転売禁止法」が制定され、高額転売が明確に禁止された。
CtoC・売買CASH
目の前のアイテム即現金化
古物営業法
貸金業法
「写真だけで現金化」=「商品の引き渡し前に現金を渡す」行為が、売買ではなく「金銭の貸付け(質屋)」ではないかと指摘された。【修正】
サービスを一時停止し、キャンセル料(=利息とみなされる部分)を撤廃するなど、法的に「売買」と整理できるよう仕様を変更して存続。
広告・PRペニーオークション景品表示法
詐欺罪
「激安で落札できる」と見せかけ、実際にはボットが自動入札して落札できない仕組み(入札手数料のみ搾取)。【逮捕・消滅】
運営者が詐欺罪で逮捕。宣伝に協力した芸能人も社会的制裁を受けた。
物流・交通0円タクシー
(どん兵衛タクシー等)
道路運送法「乗客は無料だが、広告主が運賃を払っている」なら、それは有償運送であり、許可が必要という解釈。【指導・修正】
国交省の指導を受け一時停止。現在はタクシー会社と組む(正規の事業者が運行する)形で適法化。

まとめ:「止める法務」から「創る法務」へ

新規事業の適法性リサーチは、単なる「確認作業」ではありません。
まだない道を切り拓く、クリエイティブな仕事です。

「法律で禁止されているから無理です」 ではなく、 「今のスキームだと違法ですが、ここをこう変えれば適法にローンチできます」

そう言える法務人材は、市場価値が極めて高く、どの企業からも引く手あまたです。
もしあなたが、「ルーチンワークばかりでつまらない」「もっと経営に近い場所で勝負したい」と感じているなら、ベンチャー法務の世界へ足を踏み入れてみてはいかがでしょうか。

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