【企業法務の歩き方】未経験〜1年目に絶対やるべき「基礎体力」づくりの3ステップ

生成された画像の代替テキストは以下の通りです。 ``` 企業法務のキャリアにおける「基礎体力」づくりの3ステップを示すインフォグラフィック。「知識の土台」「実務の反復」「信頼と応用」の3段階の階段を、男女のビジネスパーソンが登っていく様子が描かれている。各ステップには、法律書、PC作業、握手などのアイコンが配置され、成長の過程を視覚的に表現している。 ``` スキルアップGUIDE
弁護士町田北斗

ベンチャー起業の法務を専門とし、社内弁護士として企業の成長を法的側面から支えています。
当サイトでは、単なる事務処理ではない「経営に貢献できる法務」になるための実務ノウハウを公開。
契約書審査からIPO準備、労務戦略まで、現場で本当に役立つ「攻めと守りのリーガルビジネスマインド」をお伝えします。

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「弁護士として法律事務所から企業法務へ転向したい」
「法務部に配属されたけれど、何から手をつければいいかわからない」

企業法務のキャリア初期、特に未経験から入社1年目からの1年間は、将来のキャリアを決定づける「基礎体力」をつけるための最も重要なフェーズです。

この時期に目指すべきゴールは、「定型業務を誰よりも確実に、スピーディーにこなせるようになること」

今回は、法務パーソンとしての土台を作るために、最初の2年間で徹底すべき3つのアクションプランについて解説します。


1. 「点」ではなく「面」で捉える!体系的な知識のインプット

実務に入ると、どうしても目の前の案件(点)の解決に追われがちです。しかし、基礎体力をつける時期だからこそ、意識的に「法務の全体像(面)」を把握する学習が必要です。

資格学習を「地図」として使う

おすすめのアプローチは、**「ビジネス実務法務検定試験®(2級レベル)」などの資格学習を利用することです。 資格取得そのものよりも、真の目的は「企業法務全般の知識を体系的に網羅すること」**にあります。

  • なぜ必要か?
    • 自分の担当業務が、企業活動全体の中でどの位置にあるのかを理解するため。
    • 「知らないこと」をなくし、リスクの所在を直感的に察知するアンテナを磨くため。

【対比表】「資格マニア」と「地図を持った実務家」の学習法の違い

項目× 資格取得がゴールの人(点での暗記)◎ 地図として使う人(面での理解)実務での効能
学習の目的「合格点(70点)を取ること」
過去問を丸暗記し、試験に出ない分野は捨てる。
「法分野の全体像(森)を見ること」
民法、会社法、知財、労働法がどう繋がっているか、目次レベルで頭に入れる。
【未知への対応力】
知らない単語が出ても「あ、これは知財のあの辺りの話だ」と、調べるための**「検索ワード」**が瞬時に浮かぶようになる。
暗記の対象「数字や細かい要件」
「消滅時効は5年」「取締役の任期は2年」といった数字の暗記に終始する。
「制度の趣旨(なぜあるか)」
「なぜ時効があるのか(証拠散逸防止)」「なぜ任期があるのか(経営責任)」という**理由(Why)**を理解する。
【応用力】
細かい数字を忘れても六法を見れば済みます。しかし「趣旨」を理解していれば、法律に書いていないグレーゾーンの判断ができるようになります。
実務での反応「習っていないので分かりません」
テキストに載っていないイレギュラーな事案が来ると、思考停止する。
「ここが怪しい気がします」
「詳しい条文は覚えていないが、このスキームは下請法に引っかかりそうだ」という**リスク検知のアンテナ**が働く。
【リスク回避】
法務の最大の敵は「無知」ではなく「無自覚」です。「何かありそう」と気づき、弁護士に相談するタイミングを逃しません。

なぜ「ビジ法2級」なのか?

司法試験や行政書士試験は、特定の科目を深く掘り下げますが、範囲が偏りがちです。

一方で「ビジネス実務法務検定2級」は、民法・会社法・労働法・知財・独禁法・消費者法・国際法務まで、企業活動に必要な法律を**「浅く広く」**網羅しています。

ベンチャー法務において重要なのは、特定の法律の博士になることではなく、**「自分の会社に関係する法律が、この世にいくつ存在するか」**という地図(全体像)を持っていることなのです。

ビジ法1級は目指すべき?

ベンチャー法務の実務において、1級取得は必須ではありません

現場で必要な「知識の地図(全体像)」は2級で十分です。
1級は論述式(論文式)で難易度が高く、取得にかかる時間を「契約交渉」や「IT理解」などの実務経験に充てる方が、即戦力としての市場価値は上がります。

1級は、法務専業としてのキャリアを極める際や、弁護士資格を持たずに高度な専門性を証明したい場合の「最終目標」と位置づけましょう。

「型」を頭に入れる読書術

入門書や実務書を読み込み、契約類型ごとの**基本的なチェックポイント(レビューの観点)**を頭に叩き込みましょう。
「何かあったら調べる」ではなく、関連法令の概要や建付けが頭に入っている状態でなければ、実務ではスピード感をもって処理できません。

【対比表】「型」がない人のレビュー vs 「型」がある人のレビュー

契約類型・条項× 「型」がない状態(都度調べ・字面だけ追う)◎ 「型」が入っている状態(構造を理解・リスクを瞬時に検知)脳内にある「型」(必須チェックポイント)
秘密保持契約
(NDA)
「秘密情報の定義は漏れがないかな? 期間は3年か、ふむふむ」
→ 書いてあることを確認するだけ。
「**『残存条項』がないな。これだと契約終了後に秘密を使い放題にされてしまう。あと、『例外規定』が標準より狭いぞ」
→ 書いていないこと(欠落)に気づく。
【NDAの型】
1. 定義(広すぎないか?)
2. 例外(公知情報は除外か?)
3. 残存条項(終了後も有効か?)
4. 目的外使用の禁止
業務委託契約
(開発・制作など)
「報酬は100万円で、納期は月末か。金額は合っているな」
→ ビジネス条件(金・時間)しか見ていない。
「これは『請負』なのか『準委任』なのか曖昧だ。検収基準も書いてないから、『完成していない』と言われて報酬未払いになるリスク**がある」
→ 契約の法的性質(民法上の類型)を特定する。
【業務委託の型】
1. 類型(請負 vs 準委任)
2. 権利帰属(成果物は誰のもの?)
3. 検収・支払条件(いつ確定する?)
4. 再委託の可否
損害賠償条項
(一般条項)
「『損害を賠償する』と書いてある。何かあったら怖いな…」
→ 漠然とした不安を持つだけ。
「上限(キャップ)設定がない。**『予見可能性の有無を問わず』**という文言が入っているから、特別損害まで賠償範囲が広がるリスクがある。修正必須だ」
→ リスクの範囲と金額を計量する。
【損害賠償の型】
1. 上限(契約金額相当までか?)
2. 範囲(通常損害のみか、特別損害も含むか?)
3. 起因(故意・重過失の場合は?)

読書のコツ:条文例ではなく「解説の目次」を覚える

実務書を読むときは、全てを理解する必要はありません。試験ではないので暗記も不要です。

重要なのは、**「第◯章 権利の帰属」「第◯章 契約不適合責任」といった「法令の目的」「権利の性質」「論点の項目」**を頭に入れるのです。
「この契約書は、請負型の契約だから本来あるべき『権利帰属』の項目がない」
「このビジネスモデルなら、『再委託』の項目がないと回らないはずだ」

このように、頭の中の「型(目次)」と「目の前の契約書」を照らし合わせる作業こそが、プロの契約レビュー(リーガルチェック)です。


2. 質は量から生まれる。「定型契約」で相場観を養う

インプットした知識は、アウトプットして初めてスキルになります。最初の1〜2年は、とにかく打席に立ち、バットを振る回数を稼ぎましょう。

秘密保持契約(NDA)と業務委託契約を極める

まずは、企業法務の基本中の基本である、以下の定型契約のレビュー経験を積んでください。

  • 秘密保持契約(NDA)
  • 基本的な業務委託契約

これらは多くの企業でひな形(テンプレート)が用意されています。ひな形がある契約書のレビュー数をこなすことで、以下のような「肌感覚」が身につきます。

  • 「この条項は修正必須だが、ここは譲歩しても実害が少ない」
  • 「業界のスタンダード(相場観)から見て、この要求は過大だ」

この自社の基準(ポリシー)と世間の相場観を身につけることこそが、将来難易度の高い案件を扱う際の羅針盤となります。

【対比表】教科書通りのレビュー vs 現場の「相場観(肌感覚)」

契約類型・論点× 初心者のガチガチ判断(教科書通り・全部修正)◎ プロの相場観(メリハリ・実利優先)判断の理由(羅針盤)
NDA:契約期間
(有効期間)
「秘密を守るのに期限をつけるのはおかしい。**『永久に』有効と修正すべきだ」「一般情報の『永久』は相手が嫌がるし、管理も現実的ではない。『契約終了後3年』で合意し、重要な『営業秘密』だけは例外的に期限なし**としよう」【落としどころ】
IT業界などの情報の陳腐化が早い業界では、3〜5年が相場。そこに固執して契約を遅らせるより、重要情報の保護に絞る。
NDA:秘密の定義
(開示情報の範囲)
「口頭で喋ったことも全て秘密にしたいので、**『開示された一切の情報』と広げよう」「範囲が広すぎると、相手は『うっかり違反』を恐れて萎縮する。『文書で秘密と明示したもの、または口頭の場合は後日書面化したもの』という原則的な限定を受け入れよう」【実害の少なさ】
本当に守りたい技術情報は、通常ドキュメントで渡すはず。口頭情報の管理コストを考えると、限定しても実害は少ない。
業務委託:権利帰属
(成果物の著作権)
「お金を払うのだから、成果物の著作権は全て自社(発注者)に帰属させるべきだ**」「相手が既存の自社エンジンやライブラリを流用して開発する場合、全譲渡は不可能だ。**『汎用的なモジュールは相手に残し、今回独自に作った部分だけ譲渡』**で手を打とう」【業界標準】
IT開発において「100%譲渡」はベンダー側に断られるのが相場。権利を奪うより「自由に使える権利(利用許諾)」の確保を優先する。
業務委託:損害賠償
(賠償額の上限)
「何かあったら困るから、賠償額の上限(キャップ)は撤廃してもらおう」「相手の報酬額に対してリスクが青天井では、契約してくれない。**『委託料の12ヶ月分相当額』**を上限とするのが一般的な相場だ。これを飲まないと他社に取られる」【ビジネスバランス】
大手企業相手でもない限り、無制限賠償は通らない。「取れるはずのない賠償金」を夢見るより、契約を成立させることを選ぶ。

解説:「自社の基準」を持つということ

このトレーニングを繰り返すと、新しい契約書を見た瞬間に違和感を持てるようになります。

  • 「あれ? 普通はここ『1年分』って書くのに、『1ヶ月分』になってるぞ(=異常値の検知)」
  • 「この条項、相手は絶対に修正してくるだろうから、最初から少し緩めて出そう(=先読み)」

この感覚こそが、法務担当者としての**「スピード」と「交渉力」の源泉**です。まずは基本の2契約で、千本ノックのように数をこなしてください。


3. 「法律」と同じくらい「ビジネスモデル」を理解する

外部の顧問弁護士と、社内法務(インハウスローヤー)の決定的な違いは何でしょうか? それは、**「ビジネスの現場を解像度高く理解しているか」**です。

法律の知識だけでジャッジする法務は、現場から「事業のブレーキ」と見なされてしまいます。以下の行動を通じて、事業への理解を深めましょう。

  • 自社や他社製品・サービスを実際に使ってみる(ユーザー目線を持つ)
  • 他社の営業資料や提案書を読み込む(ビジネスモデルとキャッシュポイントを知る)
  • 異業種交流や起業コミュニティに参加する(様々なビジネスの課題感を知る)

「このビジネスモデルなら、ここが法的な急所になるはずだ」と、ビジネス構造から法的リスクを逆算できるようになれば、あなたはもう初心者ではありません。

【対比表】「法律屋」と「ビジネスパートナー」の視点の違い

具体的なアクション× 法律知識だけの法務(外部顧問的・ブレーキ役)◎ ビジネスを理解した法務(社内当事者・アクセル役)法務業務への効果
① 自社・他社製品を
実際に使ってみる
(ユーザー体験の理解)
「画面は見ていませんが、規約の文言としては完璧です」
→ 実際のUI/UXを知らないため、クリックフロー上の同意取得ミス(法的欠陥)に気づけない。
「デモを触りましたが、同意ボタンが分かりにくいですね」
→ ユーザーがどこでつまづくかを知っているため、**「適法かつ離脱率の低いUI」**を提案できる。
【実効性の確保】
机上の空論ではなく、実際のアプリや画面遷移に即した、ユーザーフレンドリーな規約・同意フローを設計できる。
② 営業資料・
提案書を読み込む
(キャッシュポイントの理解)
「契約書のこの条項はリスクがあるため、削除すべきです」
→ ゼロリスクを求めるあまり、商談を壊す。
「この案件は利益率が高い(重要顧客だ)から、多少のリスクは許容範囲ですね」
→ **「どこで、いくら儲かるか」**を知っているため、リスクとリターンの天秤を正しくかけられる。
【経営判断の補助】
「とにかくリスクを減らす」のではなく、「利益最大化のために取るべきリスク」を選別できるようになる。
③ コミュニティ・
商談への参加
(顧客課題の理解)
「法的にクレームになる事案ではありません。放置でOKです」
→ 法律論で切り捨て、顧客の信頼(ブランド)を損なう。
「法的には問題ないですが、ユーザーは『裏切られた』と感じています」
→ 顧客の期待値(インサイト)を知っているため、炎上を防ぐための誠実な対応策を主導できる。
【レピュテーション管理】
「違法か適法か」だけでなく、「自社のファンが減らないか」というマーケティング視点でのアドバイスが可能になる。

解説:法務の言葉を「商売の言葉」に変える

これらの行動をとることで、法務担当者の口から出る言葉が変わります。

  • 「法律で決まっているからダメです」↓
  • 「**このUIだとユーザーが誤解して、返金リクエストが増える懸念があります。**だからここを変えませんか?」

このように、法的根拠だけでなく**「ビジネス上のデメリット(返金、評判低下、顧客離脱)」**をセットで語れるようになると、経営陣や現場は「この人はビジネスを分かっている」と認め、あなたの提案を受け入れるようになります。


まとめ:最初の1年が「選ばれる法務」への分かれ道

  1. 体系的なインプットで地図を持つ
  2. 定型契約の数をこなし、相場観を養う
  3. ビジネスモデルを理解し、現場の文脈を理解する

この3つは地味な作業に見えるかもしれません。しかし、この「基礎体力」を徹底して鍛えた法務パーソンは、2年目以降、応用的なM&A案件や紛争対応、新規事業の立ち上げ支援などで飛躍的な成長を遂げます。

まずは焦らず、目の前の定型業務を「極める」ことから始めてみましょう。それが、市場価値の高い法務人材への最短ルートです。

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