「新規事業を立ち上げたいが、資金が足りない」
「優秀な人材を採用したいが、人件費の負担が重い」
創業間もないベンチャー企業や中小企業にとって、返済不要の資金である「補助金・助成金」は非常に魅力的な手段です。
しかし、その種類の多さや手続きの複雑さから、申請をあきらめてしまったり、逆に知識不足から**「意図せず不正受給になってしまった」**というトラブルも散見されます。
本記事では、企業法務の専門家としての視点から、ベンチャー企業が知っておくべき補助金・助成金の全体像と、申請時に注意すべき法的なポイントを解説します。
1. そもそも「補助金」と「助成金」は何が違う?
経営者の会話では混同されがちですが、管轄や性質が明確に異なります。ここを間違えると、相談先(士業)を間違えることになります。
【図解】補助金と助成金の違い
| 項目 | 補助金 | 助成金 |
| 主な管轄 | 経済産業省・中小企業庁・自治体 | 厚生労働省 |
| 目的 | 事業の拡大、設備投資、IT化の支援 | 雇用環境の整備、労働者の職業能力向上 |
| 採択率 | 競争がある(審査があり、落ちることもある) | 要件を満たせば原則受給できる |
| 募集期間 | 公募期間が限定されている(年数回など) | 通年で申請できるものが多い |
| 専門家 | 申請代行事業者など | 社会保険労務士(社労士)の独占業務 |
2. ベンチャー企業におすすめの主な制度
数ある制度の中で、特にベンチャー・中小企業での活用頻度が高いものをピックアップしました。
① IT導入補助金(経産省系)
業務効率化のためにITツール(会計ソフト、勤怠管理システム、ECサイト制作など)を導入する費用の一部を補助します。
- メリット: ベンチャーでも採択されやすく、比較的申請のハードルが低い。
- 注意点: 指定された「IT導入支援事業者」を通じて申請する必要があります。
② 事業再構築補助金(経産省系)
コロナ禍や経済環境の変化に対応し、思い切った事業転換(新分野展開)を行う企業を支援する大型の補助金です。
- メリット: 補助額が数千万円単位になることもあり、大規模な投資が可能。
- 注意点: 事業計画書の作り込みが非常に重要で、認定支援機関(銀行や税理士など)との連携が必須です。
③ キャリアアップ助成金(厚労省系)
契約社員やアルバイトなどの非正規雇用労働者を、正社員化した場合などに支給されます。
- メリット: 人材採用・定着とセットで資金が得られるため、組織拡大期のベンチャーに最適。
- 注意点: 「正社員にする前」に計画届を出す必要があるなど、手順が厳格です。
3.プロも使っている「無料検索ツール」3選
Googleで闇雲に検索するのではなく、国や公的機関が運営するデータベースを使うのが最短ルートです。おすすめの3サイトを紹介します。
【表】自社に合う制度が見つかる!推奨検索サイト
| サイト名 | 特徴・おすすめ理由 | 向いている用途 |
| ① J-Net21 (中小機構) | 「まずはここを見るべき」 国だけでなく、都道府県や市区町村のマイナーな制度まで網羅されている。更新頻度が高い。 | ● 地域限定の補助金を探したい時 ● 業種別で検索したい時 |
| ② ミラサポplus (中小企業庁) | 「国の大型補助金に強い」 「事業再構築補助金」や「ものづくり補助金」など、経産省系のメジャーな補助金情報が整理されている。 | ● 大型設備投資をしたい時 ● 電子申請(gBizID)を行いたい時 |
| ③ 雇用関係助成金検索ツール (厚生労働省) | 「人を雇う・育てるならここ」 採用、無期転換、育児休暇など、人事労務系の助成金に特化して検索できる。 | ● 新人を採用する時 ● 従業員の研修を行いたい時 ● テレワークを導入したい時 |
4.採択率が変わる!補助金・助成金申請、審査員を納得させる「5つのコツ」
申請書を一生懸命書いたのに不採択…。その原因の多くは、事業の良し悪し以前に**「伝え方」と「整合性」**にあります。 数多くの申請書を見てきた経験から、審査員(読み手)に選ばれるための実践的なコツを解説します。
補助金と助成金で「攻め方」を変える
まず大前提として、この2つは求められるアプローチが真逆です。
審査員を味方につける具体的なテクニック
ここでは、難易度の高い「補助金(事業再構築補助金など)」の採択率を上げるテクニックを中心に紹介します。
① 公募要領の「審査項目」をオウム返しにする
審査員は、採点シート(審査項目)を見ながら点数をつけます。 申請書の中に、採点項目のキーワードそのものを散りばめましょう。
- 悪い例: 「当社の強みは技術力です。」
- 良い例: 「【審査項目:技術的優位性】について、当社の強みは…」 → 読み手に「ここに答えが書いてありますよ」とナビゲートする親切さが重要です。
② 「加点事由」は全て取りに行く
賃上げ表明、パートナーシップ構築宣言など、チェックを入れるだけで点数がもらえる「加点事由」があります。 合否ラインギリギリの戦いでは、この数ポイントが命取りになります。可能な限り全て申請しましょう。
③ 図解と写真を多用する(文字だけで埋めない)
審査員は短期間に数百件もの申請書を読みます。文字だけの書類は、それだけで読む気を削がれます。
- 現状の課題 → 解決策(今回の事業) → 将来の展望 この流れを図解にし、機械や店舗の写真を貼るだけで、理解度は格段に上がります。
法務のプロが教える「数字の根拠(エビデンス)」
最も厳しく見られるのが、収支計画の実現可能性です。 「売上が伸びます」という願望ではなく、**「納得できる積算根拠」**を提示してください。
チェックポイント:一貫性
最後に必ずチェックしていただきたいのが、**「書類間の一貫性」**です。
些細な不整合が「杜撰な計画」「管理能力なし」と判断され、不採択の引き金になります。
申請のコツは、「審査員も疲れている人間である」と想像することです。
読みやすく、根拠が明確で、国の施策(要領)に沿ったストーリーが描かれていれば、採択の確率は飛躍的に高まります。
4. 【弁護士からの警告】絶対に避けるべき「法務リスク」
「返済不要でもらえるお金」という側面だけを見て、安易な申請をすることは非常に危険です。近年、国による審査や事後調査(会計検査)が厳格化しています。
① 「不正受給」は犯罪です
実態のない事業計画での申請や、経費の水増し請求は、詐欺罪等の犯罪行為にあたります。
「コンサルタントに『みんなやってますよ』と言われた」という言い訳は通用しません。発覚した場合、社名の公表、加算金(ペナルティ)を含む返還命令、最悪の場合は刑事告訴され、企業の社会的信用は一瞬で崩壊します。
【表】不正受給の典型的な手口と、待ち受ける「末路」
| 不正の類型(手口) | よくある動機・言い訳 | 発覚後の法的・社会的制裁 |
| ① 経費の水増し請求 業者と結託し、本来500万円の機械を「1,000万円」と偽った見積書・請求書を作成させ、多額の補助金を騙し取る。 | 「業者が『キャッシュバック(キックバック)してあげるから実質タダになる』と持ちかけてきた」 「自己資金を用意できなかった」 | 【刑事告訴と逮捕】 悪質な詐欺事案として警察に通報され、経営者が逮捕される。 共謀した業者も逮捕され、業界内でニュースになる。 |
| ② 架空の事業・研修 実際には行っていない研修の報告書を捏造したり、勤務実態のない従業員を雇ったように見せかけて助成金を申請する。 | 「忙しくて研修をする暇がなかったが、書類さえ整えればバレないと思った」 「コンサルタントが『書類作成は全部任せて』と言った」 | 【社名公表と信用失墜】 厚生労働省等のHPで企業名・代表者名が公表される。 銀行取引停止、取引先からの契約解除が相次ぎ、事実上の倒産に追い込まれる。 |
| ③ 目的外流用・転売 補助金で購入した設備(PC、車両、機械等)を、すぐに転売して現金化したり、事業と無関係な私的利用(キャンプ等)に使ったりする。 | 「一度買ってしまえば、会社の所有物だからどう使おうと勝手だと思った」 「資金繰りが厳しく、背に腹は代えられなかった」 | 【加算金付きの一括返還】 受給額の全額に加え、**年10.95%等の高額な加算金(ペナルティ)**を上乗せして一括返還を命じられる。 返還できない場合は財産の差押えを受ける。 |
【警告!】そのコンサルタントは責任を取りません
不正受給の多くは、**「成果報酬型の手数料」**を目当てにした悪質なコンサルタントの指南によって引き起こされます。
彼らは「裏ワザがある」「審査に通る書き方がある」と甘い言葉を囁きますが、不正が発覚した時、逮捕されるのも、借金を背負うのも、会社を潰されるのも、すべて経営者自身です。
「甘い話には罠がある」。
法務担当者は、社内でこのような不正な動きがないか、常に目を光らせておく義務があります。
② 「後払い」による資金ショート
補助金・助成金のほとんどは**「後払い(精算払い)」**です。
先に銀行融資や自己資金で経費を支払い、実績報告をした後に国から振り込まれます(1年後になることもあります)。このタイムラグを計算に入れずに高額な投資を行うと、入金前に会社が倒産する「黒字倒産」のリスクがあります。

③ 目的外使用の禁止
補助金で購入した設備を勝手に売却したり、申請した事業以外に使ったりすることは禁止されています(財産処分の制限)。これに違反すると補助金の返還を求められる法的義務が生じます。
【表】よくある「目的外使用・勝手な処分」の実例とリスク
| NG行為の類型 | 具体的な実例(やってはいけないこと) | 法的な問題点とペナルティ |
| ① 無断売却・転売 (Cash化) | ● 補助金で導入した高額な機械を、資金繰りのために中古業者へ売却してしまう。 ● PCやタブレットを購入直後にフリマアプリ等で転売し、現金化する。 | 【補助金適正化法違反】 所有権は会社にあっても、処分権限が制限されています。 無断売却が発覚した場合、売却益の有無にかかわらず、補助金の全額または一部の返還を命じられます。 |
| ② 目的外の流用 (私物化・別用途) | ● 「事業用」として申請した社用車を、実際には社長の**家族の送迎や休日のレジャー(私用)のみに使っている。 ● 「A事業(新事業)」のために導入した設備を、申請していない「B事業(既存事業)」のみで稼働させる。 | 【契約違反・虚偽報告】 実地検査などで稼働状況を確認された際に発覚します。 申請した事業計画に従って使用していないとみなされ、経費として認められず返還対象となります。 |
| ③ 担保提供 (借金のカタ) | ● 補助金で購入した工場や大型設備を、銀行融資やノンバンクからの借入のために抵当権(担保)を設定してしまう。 | 【処分制限の抵触】 担保に入れる行為も「処分」の一種とみなされ、原則として事前の大臣承認**が必要です。 無断で行うと契約違反となり、重大なトラブルに発展します。 |
「どうしても売りたい」時は?
事業の状況変化により、どうしてもその設備を売りたい、あるいは廃棄したいというケースもあるでしょう。
その場合は、絶対に無断で行わず、事前に所管官庁(事務局)へ「財産処分承認申請書」を提出してください。
といった適正な手続きを踏めば、法的に問題なく処分することが可能です。
「相談すると怒られる」のではなく、「相談せずに処分するとペナルティを受ける」のが補助金のルールです。
【実例3選】ただの「足し」にするな!補助金・助成金を活用してビジネスを劇的に拡大させた成功ケース

「補助金申請は面倒だ」と思っていませんか? 成功しているベンチャー・中小企業は、資金調達(デット・エクイティ)と並んで、補助金を**「返済不要の成長資金」**として戦略的に組み込んでいます。 ここでは、業種やフェーズの異なる3つの成功事例を紹介します。
実例①:【事業転換】斜陽産業からの脱却とV字回復
活用制度:事業再構築補助金 (※新分野展開や業態転換を支援する大型補助金)
- 企業プロフィール: 創業30年の印刷会社(売上5億円)
- 抱えていた課題: ペーパーレス化によりチラシやパンフレットの受注が激減。ジリ貧の状態だった。
- 実行した戦略(Pivot): 単なる印刷業から、**「D2Cブランド向けの梱包資材・パッケージ製造業」**への転換を決断。 さらに、デザインから配送代行までを一貫して請け負う「物流フルフィルメント事業」を計画。
- 補助金の使い道:
- 特殊なパッケージ印刷機の導入(3,000万円)
- 在庫管理システムの構築(1,000万円)
- 既存倉庫の改修費(2,000万円)
- 結果: 補助金(約4,000万円)を活用して設備投資を一気に実行。コロナ禍で急増したEC需要を取り込み、**新規事業の売上が全体の40%**を占めるまでに成長。V字回復を果たした。
このケースの勝因は「既存のリソース(倉庫・人員)」を活かしつつ、**「採択されやすいストーリー(DX・環境配慮)」**を描ききった点にあります。
実例②:【生産性向上】アナログ管理からの脱却と利益率改善
活用制度:IT導入補助金 (※業務効率化のためのITツール導入を支援)
- 企業プロフィール: 地方の食品卸売業(従業員20名)
- 抱えていた課題: 受発注がFAXと電話中心。事務員が手入力で伝票を作成しており、入力ミスや残業代の増大が経営を圧迫していた。
- 実行した戦略(DX): 取引先向けの**「BtoB受発注Webシステム」と、在庫連動型の「クラウド会計ソフト」**を導入。
- 補助金の使い道:
- ECサイト構築パッケージ費
- クラウド会計ソフトの2年分利用料
- 導入コンサルティング費
- 結果: 総額400万円の投資に対し、約250万円の補助を受給。 事務作業時間が月間150時間削減され、空いた時間で営業活動を強化。ミスが激減したことで取引先の信頼も向上し、利益率が5%改善した。
IT導入補助金は比較的申請しやすいですが、「認定支援機関(ITベンダー)」の選定が重要です。自社の業務フローを理解してくれるパートナーと組んだことが成功の鍵です。
実例③:【組織強化】「人」への投資で離職率低下と採用力UP
活用制度:キャリアアップ助成金(正社員化コース) (※非正規雇用の処遇改善を支援)
- 企業プロフィール: IT系スタートアップ(設立3年目)
- 抱えていた課題: 資金余裕がなく、初期メンバーの多くを「契約社員」や「アルバイト」で雇用していた。しかし、優秀な人材が安定を求めて他社へ流出(離職)することが頻発。
- 実行した戦略(Retention): 半年以上勤務した有期雇用スタッフ5名を、一斉に**「正社員」へ登用**。同時に就業規則を整備し、賞与や退職金制度(積立)を導入。
- 助成金の使い道:
- 受給した助成金(1人あたり57万円×5名=約285万円 ※当時)を、新たに採用するエンジニアの採用費と、研修費用に充当。
- 結果: 雇用が安定したことで従業員のモチベーション(エンゲージメント)が向上。離職率が低下し、採用面接でも「正社員登用制度あり」をアピールできるようになり、優秀な人材が集まるようになった。
助成金は「労務管理が適正であること」が絶対条件です。
この企業は、これを機に就業規則や雇用契約書を法的に完璧な状態に整備したため、その後のIPO準備(労務デューデリジェンス)もスムーズに進みました。
成功した3社の共通点は、**「補助金をもらうためにビジネスを拡大した」のではなく、「やりたいビジネスがあり、それに使える制度を探した」**という点です。
自社のフェーズに合った制度を選び、賢く資金調達を行いましょう。


