【弁護士解説】ベンチャー法務で「輝く人」と「潰れる人」の違い。激動のスタートアップが求める4つのマインドセット

alt="記事「【弁護士解説】ベンチャー法務で「輝く人」と「潰れる人」の違い。激動のスタートアップが求める4つのマインドセット」のアイキャッチ画像。中央の弁護士が、左右で対照的な二人の法務パーソンを比較しているイラスト。左側の「潰れる人」は嵐の中で重い法律書の山に鎖で縛られ疲弊している一方、右側の「輝く人」は晴天の下、ロケットに乗って羅針盤を掲げ、成長する都市へ向けて上昇している。激動のスタートアップ環境における法務の成功と停滞を視覚的に対比させている。" ベンチャー法務とは
弁護士町田北斗

ベンチャー起業の法務を専門とし、社内弁護士として企業の成長を法的側面から支えています。
当サイトでは、単なる事務処理ではない「経営に貢献できる法務」になるための実務ノウハウを公開。
契約書審査からIPO準備、労務戦略まで、現場で本当に役立つ「攻めと守りのリーガルビジネスマインド」をお伝えします。

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「大企業で法務の経験を積んだので、次はベンチャーで力を試したい」
「法律事務所での受動的な業務に飽きた。もっとビジネスに入り込みたい」

そう意気込んでベンチャー企業に転職したものの、半年も経たずに「カルチャーが合わない」と退職してしまう法務人材は後を絶ちません。 彼らに能力がなかったわけではありません。
「マインドセット(思考様式)」のチューニングができていなかったのです。

ベンチャー企業、特にスタートアップの法務に求められるのは、法律の知識量ではありません。 カオスな環境を楽しみ、ビジネスを加速させるための「4つの資質」について解説します。


1. 「評論家」ではなく「建築家」になれるか

大企業や法律事務所では、完成されたビジネスモデルや契約書があり、法務の仕事は「そのアラ探し(レビュー)」が中心になりがちです。 しかし、ベンチャーには**「そもそも契約書のひな形がない」「誰もやったことのないビジネスモデル」**という状況が日常茶飯事です。

  • 評論家タイプ(向いていない): 「このスキームには法的リスクがあります。以上。」と言ってボールを返す人。
  • 建築家タイプ(向いている): 「現状のスキームだと違法です。でも、商流をこう変えて、ここを代理店契約にすれば適法にできます。契約書案も作っておきました」と言える人。

「ないものは自分で作る」「リスクを指摘するだけでなく、橋を架ける」。
この**「クリエイター気質」**こそが、ベンチャー法務の第一条件です。


「ダメ出し」は誰でもできる。「代案出し」ができるか?

大企業では「既存のビジネスを守る(守城)」のが法務の仕事ですが、ベンチャーでは「新しいビジネスを創る(築城)」のが仕事です。

ここを履き違えると、「あの法務はビジネスの邪魔ばかりする」と疎まれ、社内で孤立します。

業務シーン① 向いていない「評論家」タイプ(Reviewer / 他人事)② 向いている「建築家」タイプ(Creator / 当事者)生み出される価値(ベンチャーでの評価)
新規事業の相談
(法規制の壁)
「業法違反の可能性があります。リスクが高いので推奨できません」
※リスクを指摘してボールを投げ返す。「で、どうすればいいの?」という現場の問いに答えない。
「直球だと違法ですが、スキームを『委託』から『仲介』に変えれば適法です。その代わり規約にこの3点を入れましょう」
※法規制を回避する迂回路(ブリッジ)を設計し、図解して提案する。
【0→1の実現】
不可能と思われたビジネスモデルを、法的な裏付けを持って「実行可能」な状態にします。
契約書の作成
(ひな形がない)
「前例がないので、まずは事業部で要件をまとめてドラフトを作ってください」
※「自分はチェックする人」というスタンス。素人に契約書を書かせようとする。
「まだ世にない契約ですね。企画会議の内容から骨子を作りました。著作権の扱いだけ特殊なので、A案とB案を用意しました」
※会議のメモから、その晩にゼロから契約書を書き上げる。
【スピードと品質】
事業部が悩み続ける時間をゼロにし、かつ最初からプロ品質の契約書で交渉をスタートできます。
トラブル対応
(クレーム発生)
「現場の確認不足が原因ですね。マニュアルを徹底させてください」
※起きた火事の原因を分析し、現場を責めるだけ。消火活動には参加しない。
「まず私がお客様に謝罪文を書きます。並行して、二度と同じミスが起きないよう、注文システムの入力必須項目を改修しましょう」
※泥をかぶって火を消しに行き、さらにシステム(仕組み)自体を再設計して解決する。
【再発防止の自動化】
精神論ではなく「仕組み(アーキテクチャ)」を変えることで、恒久的な解決をもたらします。
利用規約の作成
(UI/UX)
「免責条項が重要なので、登録画面に全文表示させてください」
※法律論を優先し、ユーザー体験(UX)を無視した使いにくい画面を強要する。
「全文表示は離脱率が上がりますね。重要な3点だけ要約して大きく表示し、詳細はリンクに飛ばす『みなし合意』設計にしましょう」
※法的効力と使いやすさ(コンバージョン)のバランスをデザインする。
【売上への貢献】
法務がユーザー体験を阻害せず、むしろスムーズな成約を後押しする存在になります。

法務=クリエイター(創造職)

この「建築家」マインドを持つ法務担当者は、単なる管理部門ではありません。

エンジニアがコードでプロダクトを作るように、**「言葉と論理(ロジック)でビジネスの骨組みを作るクリエイター」**です。

  • 評論家: 「この橋は強度が足りないから渡るな」と言う。
  • 建築家: 「強度が足りないなら、ここに補強材を入れて渡れるようにする」と言う。

ベンチャー企業が喉から手が出るほど欲しいのは、後者の人材です。

2. 「100点の安心」より「60点のスピード」を選べるか

法務のプロとして、リスクをゼロにしたい気持ちは分かります。しかし、ベンチャーにおいて**「スピード」は生存そのもの**です。 1週間の審査待ちの間に、競合他社にシェアを奪われたら、その会社は死にます。

  • 評論家: 石橋を叩いて、叩き割ってから「渡らない」と判断する。
  • 建築家: 「落ちたら死ぬ穴」だけ塞いで、あとは走りながら補修する。

致命的なリスク(刑事罰、許認可取消、巨額賠償)は絶対に止める。しかし、軽微なリスク(契約書の文言の揺らぎなど)は**「ビジネスインパクト」と天秤にかけて、あえて目をつぶる**。 この**「リスクテイクの判断」ができる胆力**が求められます。

ベンチャー法務の真価は、**「法的には100点だが、ビジネスとしては0点(遅すぎて無意味)」**という悲劇を避けることにあります。


石橋を叩く暇があったら渡れ。「リスクテイク」の判断基準表

「完璧な契約書」を作るために1週間かけるなら、「及第点の契約書」で今日サインして、キャッシュを確保する。

この優先順位の切り替えこそが、生存競争を勝ち抜く鍵です。

業務シーン・判断対象① 伝統的な「100点の安心」(石橋を叩いて壊す法務)② ベンチャー流「60点のスピード」(走りながら直す法務)判断のロジック(なぜ60点でいいのか)
契約書の修正
(些末な文言)
「『管轄裁判所』が東京ではないので修正依頼します」
「『甲・乙』の表記ゆれを統一します」
※どうでもいい形式的修正のために、ラリーを1往復(数日)増やす。
「損害賠償の上限と知財の帰属さえ守れていれば、誤字や管轄は相手の案でOK。今日サインさせましょう」
※致命傷(Fatal)以外はすべて目をつぶり、成約スピードを最優先する。
【機会損失の回避】
契約締結が1日遅れるごとの「売上損失」と、誤字による「リスク」を比較すれば、前者の損失の方が圧倒的に大きいからです。
新規サービスの規約
(ローンチ直前)
「あらゆるトラブルを想定して条文を網羅しないと、リリースできません」
※発生確率0.1%のレアケースまで議論し、リリース日を延期させる。
「『免責』と『禁止事項』のコア部分は完璧です。細かい運用ルールは、サービス開始後のユーザー動向を見て来月改定しましょう」
※まずはβ版として出し、実際のトラブルに合わせて規約を「育てて」いく。
【アジャイル法務】
誰も使っていないサービスの完璧な規約を作るより、まずはユーザーを獲得し、フィードバックを得ることの方が生存に直結します。
広告表現のチェック
(グレーゾーン)
「景表法のリスクがゼロではないので、このキャッチコピーは不採用です」
※安全策を取りすぎて、誰の心にも響かない平凡な広告にしてしまう。
「確かにグレーですが、注釈(打ち消し表示)を大きくすればリスクは下がります。撤去命令が出たら即差し替える準備をした上で、GOしましょう」
※「即死(課徴金・逮捕)」でなければ、修正対応コストを許容して攻める。
【リスク・リターン】
「行政指導を受けるリスク」と「シェアを奪取するリターン」を天秤にかけ、経営判断としてリターンを選ばせます。
社内規定の整備
(ルール作り)
「上場企業並みの『旅費規程』や『慶弔規程』を完備してから採用しましょう」
※社員5人の段階で、大企業の重厚なルールを持ち込み、運用を回らなくする。
「今は『性善説』で回しましょう。最低限の『就業規則』だけ作り、細かいルールは問題が起きてから都度制定します」
※ガチガチに管理するコストを省き、事業成長にリソースを全振りする。
【フェーズ適合】
社員10人と100人では必要な装備が違います。今のフェーズに不要なルールは、ただの「足かせ」です。

「胆力」とは「責任を取る覚悟」

60点でGOを出すことは、100点を目指すよりも勇気が要ります。なぜなら、残り40%のリスクが顕在化した時に「お前のせいだ」と言われる可能性があるからです。

しかし、ベンチャー法務(建築家タイプ)はこう言います。

「この契約書でトラブルになったら、私が解決策を考えます。だから社長は、今日サインしてきてください」

この一言が言えるかどうかが、プロの法務と、単に法律知識がある者の分かれ道です。

3. 未知の領域への「知的好奇心」があるか

ベンチャー企業は、AI、ブロックチェーン、ドローン、宇宙など、法律が追いついていない領域で戦っています。 「判例がないので分かりません」と言うのは簡単ですが、それでは仕事になりません。

向いているのは、新しい技術やトレンドに対して、 「面白そう! 仕組みはどうなってるの? どの法律が関係しそう?」 と、子供のように目を輝かせて食いつける人です。

エンジニアや事業部長と飲みに行き、技術の裏側を聞き出すのが苦にならない。そんな**「法務 × テック」「法務 × ビジネス」の掛け算**を楽しめる人が、最強のベンチャー法務になります。

「判例がない?」なら作ればいい。未知を楽しむ「法務 × テック」の思考法

「エンジニアが何を言っているか分からない」と嘆く法務担当者は多いですが、最強の法務は**「むしろエンジニアと話すのが一番楽しい」**と言います。

なぜなら、最先端の技術仕様の中にこそ、**法律の抜け穴(適法なロジック)**が隠されているからです。

技術・領域テーマ① 向いていない「思考停止」タイプ(判例がない=リスク=NG)② 向いている「知的好奇心」タイプ(判例がない=チャンス=深掘り)好奇心が生む「ビジネス価値」(ブレイクスルー)
生成AI
(著作権・学習データ)
「著作権侵害のリスクがあるので、社内での利用は禁止します」
※「AIは怖いもの」と決めつけ、一律禁止で蓋をする。
「このモデルはRAG(検索拡張生成)だよね? 入力データが学習に回らない設定にできるなら、むしろ情報漏洩リスクは低いよ。APIの規約確認した?」
※技術的な「仕組み」を理解し、安全な利用ルートを特定する。
【業務効率の爆増】
リスクをコントロールしながら全社導入を実現し、他社が足踏みしている間に生産性を倍増させる。
ブロックチェーン
(NFT・DAO)
「暗号資産は金融庁の規制が厳しいし、税制も複雑なので無理です」
※「仮想通貨=怪しい」というイメージだけで拒絶反応を示す。
「これって『決済手段』じゃなくて『会員権(ユーティリティ)』だよね? それなら資金決済法の適用外にできるかも。スマートコントラクトのコード、どうなってる?」
※トークンの「性質」を技術的に分解し、規制の及ばない設計を見つけ出す。
【新市場の開拓】
法規制の壁を技術的な定義変更でクリアし、競合が参入できないブルーオーシャンに一番乗りする。
ドローン・自動運転
(航空法・道交法)
「法律で禁止されているので、公道での実験は不可能です」
※条文の「原則禁止」だけを読み、例外を探そうとしない。
「GPSじゃなくて『LiDAR(センサー)』で制御してるなら、もっと安全性を証明できるね。これを経産省に見せて、サンドボックス制度(特例)を申請しよう!」
※技術的な安全性を武器に、国と交渉して「自社だけの特例」を勝ち取る。
【ルールメイキング】
既存の法律に従うだけでなく、新しい技術に合わせて「法律の方を変えさせる」実績を作る。
エンジニアとの対話
(コミュニケーション)
「専門用語ばかりで分かりません。日本語で説明してください」
※理解する努力を放棄し、壁を作る。エンジニアも相談に来なくなる。
「その『API連携』って具体的にどんなデータが飛ぶの? へぇ、面白い! それなら個人情報保護法はクリアできそうだね。飲みながらもっと教えて!」
※分からないことを面白がり、懐に入ることで、開発の初期段階からリスクを潰せる。
【信頼とスピード】
「法務は話が分かる」と信頼され、企画段階から相談が来るようになり、手戻りがなくなる。

なぜ雑談が最強の武器なのか?

エンジニアや事業部長は、会議室では言えない「本音の仕様(本当はこうしたい)」を持っています。

「法務 × ビジネス」を楽しめる人は、雑談の席でこう聞きます。

「ぶっちゃけ、今の法律がなかったら、どんな機能を実装したいですか?」

この質問から出てきた答えこそが、その会社の**「コア・バリュー(競争力の源泉)」です。

それを聞き出したら、翌朝、「その夢を、どうやったら合法的に実現できるか」**を必死に調査する。

「面白そう!やってみましょう!」と言える法務担当者が一人いるだけで、ベンチャーの成長速度は劇的に変わります。

4. 「カオス(混沌)」を楽しめるか

ここが最大の分かれ目かもしれません。 ベンチャー企業は、朝令暮改の世界です。昨日決まった方針が、今日の夕方にはひっくり返ることもあります。管理部門のルールも未整備で、泥臭い雑務も山のように降ってきます。

  • 整った環境で働きたい人: 「話が違う」「ルールがないなんて信じられない」とストレスを溜めてしまいます。
  • 整えることに快感を覚える人: **「めちゃくちゃだからこそ、自分の手で仕組みを作れるチャンスだ」**とワクワクできる人。

「会社という未完成のパズル」を完成させていくプロセス自体に喜びを感じられるなら、あなたは間違いなくベンチャー向きです。

整備された「道路」を走りたいか、道なき「ジャングル」を切り開きたいか

ベンチャー企業は、未完成のパズルです。ピースは足りないし、絵柄も変わるし、そもそも机がガタガタです。

「なんで揃ってないんだ!」と怒るか、「よーし、俺がピースから作ってやるか」と笑えるか。ここが運命の分かれ道です。

カオスな状況・シーン① 整った環境を求める人(ストレス・不満 ⇒ 退職予備軍)② カオスを楽しめる「開拓者」(ワクワク・貢献 ⇒ 幹部候補)脳内変換のロジック(なぜ楽しめるのか)
朝令暮改
(方針が1日で変わる)
「話が違います!昨日の作業が無駄になりました」
※変更を「徒労」と捉え、経営陣への不信感を募らせる。
「なるほど、市場の変化に合わせてピボットしたんですね。じゃあ、契約スキームもB案に切り替えます!」
※変更を「進化」と捉え、高速で対応することにゲーム性を感じる。
【スピードへの適応】
「決まったことが変わる」のは、会社が生きようとしている証拠。その変化の波乗りを楽しめるか。
ルール・前例なし
(無法地帯)
「マニュアルがないと動けません。誰に聞けばいいんですか?」
※正解(レール)を探そうとして、立ち尽くしてしまう。
「ラッキー! 何もないなら、全部自分の好きなようにルールを作れるじゃん。今日から俺が法律だ」
※「空白」を「自由なキャンバス」と捉え、理想の仕組みをゼロから設計する。
【オーナーシップ】
大企業では変えるのに3年かかる社内規定も、ベンチャーなら3日で制定・運用できます。この全能感は中毒になります。
泥臭い雑務
(法務以外の仕事)
「私は法務の専門家です。オフィスの掃除やWifi設定なんてやりたくないです」
※職務記述書(JD)にこだわり、自分の領域を限定する。
「Wifiが繋がらないと契約書も送れないしね。ついでにセキュリティ設定も強化しておきましたよ」
※「会社が前に進むためなら何でもやる」という総合格闘技のスタンス。
【全体最適の視点】
雑務を通じて現場社員と仲良くなれば、結果として「法務への相談」もしやすい関係性が築けます。
突発的なトラブル
(炎上・訴訟リスク)
「なんでこんなことになるまで放っておいたんですか!(怒)」
※他責思考で犯人探しをし、トラブルをただの「嫌なこと」として処理する。
「うわ、これは痺れる案件だね(笑)。この難局を無傷で着地させたら、伝説の武勇伝になるな」
※トラブルを「経験値稼ぎのイベント」と捉え、解決プロセス自体を楽しむ。
【レジリエンス(回復力)】
平穏無事な毎日よりも、波乱万丈なドラマの中に身を置くことに「生きてる実感」を感じるタイプです。

まとめ:法務は「守りの盾」から「攻めの武器」へ

ベンチャー企業の法務は、単なる「バックオフィス(後方支援)」ではありません。 経営陣の隣で、法的な知識を武器に戦略を描く**「フロントオフィス(最前線)」**の仕事です。

「弁護士資格を持っている」「法務実務経験がある」 それはあくまでスタートラインに過ぎません。

そこから一歩踏み出し、**「ビジネスを創る当事者になりたい」**という熱いマインドセットを持っているなら、ベンチャー法務の世界は、あなたにとって最高の遊び場になるはずです。

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