「会議の内容はSlackやNotionに残しているから大丈夫」
ベンチャー企業でよく聞く言葉ですが、法務の観点からは極めて危険です。
会社法上、株主総会や取締役会の議事録は**「法定備置書類」であり、作成と保存(10年間)が義務付けられています。
これらは単なる記録ではなく、「取締役の身を守る保険」であり、「税務署に対する証明書」**なのです。
議事録は「会社の記憶」であり「最強の防具」

議事録が必要なシーンは、大きく分けて3つのレベルがあります。
特にレベル1(法令義務)は、作成していないと**「過料(罰金)」**の対象になったり、決議そのものが無効になったりするため、選択の余地はありません。
【レベル別】議事録作成が必要な具体的シーン一覧表
| 必要レベル | 具体的な会議・シーン | 作成すべき理由とリスク(なぜ必要なのか?) | 保存期間(目安) |
| レベル1 【法令義務】 ※絶対に必須 | ① 株主総会 (定時・臨時) | 【会社法318条】 作成義務があります。これがないと、役員変更の登記ができず、過料(100万円以下)の制裁を受けます。 | 本店10年 支店5年 |
| ② 取締役会 (月次・臨時) | 【会社法369条】 「誰が賛成し、誰が反対したか」を記録し、取締役の責任範囲を明確にする法定書類です。 | 本店10年 | |
| ③ 監査役会 | 【会社法390条】 監査報告の内容を決定するプロセスを記録します。 | 10年 | |
| レベル2 【税務・労務】 ※実質必須 | ④ 役員報酬の決定 (昇給・賞与) | 【損金不算入のリスク】 「いつ、いくらに決めたか」の証拠がないと、税務署はお手盛り(利益操作)とみなし、経費としての計上を否認します。 | 7〜10年 |
| ⑤ 懲戒処分の決定 (賞罰委員会) | 【不当解雇訴訟への備え】 「弁明の機会を与えたか」「公平に審議したか」という適正なプロセスを証明する唯一の証拠です。 | 紛争解決まで (永年推奨) | |
| レベル3 【契約・開発】 ※防御のため | ⑥ システム開発・請負 (要件定義・定例) | 【言った言わないの防止】 「仕様変更を了承した」「追加費用がかかると伝えた」という記録がないと、開発後に**「聞いてない」**とトラブルになります。 | 契約終了後 10年 |
| ⑦ 下請法関連の交渉 (価格決定) | 【買いたたきの疑い】 公正取引委員会の調査に対し、「十分な協議を経て価格を決めた」ことを証明するために必要です。 | 3年以上 | |
| ⑧賞罰委員会における協議事項 | 「不当解雇だ」と訴えられた時に、会社を守るための防具です。 「事実認定」と「弁明の機会(言い分を聞いたこと)」の記録が命です。 | 3年程度 |
「メモ」と「議事録」の決定的な違い
多くの現場担当者が混同していますが、この2つは全く別物です。
レベル1・2においては、「メモ」では役に立ちません。
ご提示いただいた「議事録の作成が必要な場合」に基づき、実務で最も重要となる3つのパターン(取締役会、懲戒処分、トラブル予防)について、**「そのまま使える具体例(ひな形)」と「法務的な書き方のポイント」**を作成しました。
「何を書くべきか」ではなく、**「何が書いてあれば裁判で勝てるか」**という視点で構成しています。
【保存版】議事録のシーン別の記載例3選
【取締役会】銀行・登記・株主対策用
会社法で求められる「法定記載事項」を網羅した、最もフォーマルな形式です。 特に最近多い「Web会議開催」と「利益相反取引(社長の給与決定など)」の記載に注意が必要です。
第〇回 取締役会議事録
1. 開催日時: 202X年〇月〇日(月) 午前10時00分 ~ 午前11時00分
2. 開催場所: 当社本店会議室 (※Web会議システムを利用した出席者については、議長である代表取締役〇〇の自宅および各取締役の自宅)
3. 出席者: 取締役総数 4名 (出席 4名) 監査役総数 1名 (出席 1名)
4. 議長: 代表取締役 社長太郎5. 決議事項: 第1号議案 役員報酬改定の件 議長より、当期の業績および世間水準を考慮し、取締役の報酬月額を別紙のとおり改定したい旨の説明があった。 議長は、本議案について特別の利害関係を有するため、審議および採決には参加せず、一時退室した。 議長を除く出席取締役全員で審議した結果、本議案は満場一致をもって原案どおり承認可決された。
6. 閉会: 以上の通り審議を終了したので、議長は閉会を宣した。
上記の決議を明確にするため、出席取締役および監査役は、次に記名押印(または電子署名)する。
【ここが法務のポイント】
【賞罰委員会】ハラスメント・懲戒処分用
「不当解雇だ」と訴えられた時に、会社を守るための防具です。 「事実認定」と「弁明の機会(言い分を聞いたこと)」の記録が命です。
懲戒処分に関する審議・決定議事録
1. 日時: 202X年〇月〇日
2. 対象者: 営業部 課長 〇〇〇〇(以下、被処分者)
3. 事案の概要: 被処分者は、部下Aに対し「バカ」「死ね」等の暴言を複数回にわたり吐き、精神的苦痛を与えた(パワーハラスメント)。4. 審議内容: (1) 事実関係の確認 調査報告書(別紙)に基づき、録音データ等の証拠を確認。暴言の事実は明白であると認定した。
(2) 被処分者の弁明 本日10時より本人を呼び出し、弁明の機会を付与した。 本人は「指導のつもりだった」と主張したが、具体的な暴言の内容については事実を認めた。なお、これ以上の反論・新たな証拠はない旨を確認した。
(3) 量刑の検討 就業規則 第〇条(懲戒)に基づき検討。 行為は悪質であるが、過去に懲戒歴がないこと、本人が反省の弁を述べていることを考慮し、解雇までは重すぎると判断。「出勤停止7日間」および「課長職からの解任(降格)」が相当であると結論付けた。5. 決定事項: 上記の通り決定し、〇月〇日付で本人に通知する。
【ここが法務のポイント】
【プロジェクト定例】言った言わない・追加費用対策
システム開発やコンサルティングなど、後で揉めやすい「仕様変更」の証拠です。 「決定事項」と「ToDo」だけでなく、**「お金(コスト)」**についての合意を必ず残します。
〇〇システム開発定例 MTG議事録
1. 日時: 202X年〇月〇日
2. 参加者: (自社)開発担当A、B (顧客)担当C様、部長D様
3. 決定事項(合意事項):
(1) 検索機能の仕様変更について 顧客要望により、検索条件に「日付範囲指定」を追加することで合意した。
(2) 追加費用と納期について 上記変更に伴い、追加費用として「50万円(税別)」が発生すること、および納期が「2週間後ろ倒し(X月X日)」になることについて、顧客(部長D様)の承認を得た。 ※次回MTGまでに、正式な見積書・覚書を取り交わす。
4. 保留事項(Next Action): ・データ移行の手順については、来週までに顧客側で方針を決定する。
【ここが法務のポイント】
法務のTodo(運用アドバイス) これらの議事録は、作成して終わりではありません。 必ず**「メールやチャットで相手に送り、異議がないか確認する」**までがセットです。
- メール文面例: 「本日の議事録を送付します。内容に相違がある場合は、〇月〇日までにご返信ください。期日までにご連絡がない場合は、本内容で確定とさせていただきます。」
この一文があるだけで、相手が返信しなくても「黙示の承認」があったと主張しやすくなります。
実務のポイント:電子化のススメ
会社法上の議事録(株主総会・取締役会)には、出席役員の署名または記名押印が必要です。
紙で回覧してハンコを集めるのは大変ですが、現在は**「電子署名(クラウドサイン等)」**による作成・保存が法律で認められています。
法務のTodo:
「リモート開催の取締役会で、どうやってハンコを集めるんだ?」という問題は、**「電子契約システムでの署名フロー」**を導入することで一発解決します。これにより、郵送の手間と紛失リスクがゼロになります。
ダメな議事録の例を紹介
【比較表】ただの「メモ」vs 法的な「議事録」
「何が話し合われたか」だけ書いても意味がありません。「何が決まり、誰が賛成したか、誰がなぜ反対したたか」が重要です。
| 記載項目・状況 | ① ダメな議事録(ただのメモ)※法的効力なし | ② 正しい議事録(法的な証拠)※会社を守る盾 | 記載の有無による法的な違い・リスク |
| 反対意見の記録 (重要決議) | 「活発な議論の末、承認された」 ※誰が反対したか書かれていないため、出席者全員が賛成したとみなされます。 | 「取締役Aは、資金繰りの懸念から本案に反対の意を表明した」 ※反対した事実を明記します。 | 【連帯責任の回避】 もしその決議で会社が損害を被った場合、賛成者は賠償責任を負いますが、議事録に反対を記録させた取締役だけは免責されます。 |
| 利害関係者 (利益相反取引) | 「社長の所有不動産を会社が買う件について承認」 ※社長が採決に参加したか不明確。 | 「本案について特別の利害関係を有する代表取締役〇〇は、決議に参加しなかった」 | 【決議の有効性】 利害関係者(この場合は社長)は議決権を持てません。彼が退席・棄権した記録がないと、決議自体が無効になる恐れがあります。 |
| 開催日時・場所 (オンライン開催) | 「Zoomにて開催」 ※これだけでは場所の特定ができず、要件を満たしません。 | 「開催場所:議長〇〇の自宅、およびWeb会議システムを用いた出席」 | 【法的な不備】 会社法では「開催場所」の明記が必須です。バーチャル開催でも「議長がいる場所」等を書く必要があります。 |
| 署名・押印 (真正性の担保) | 「作成者:事務局」 ※ハンコや電子署名がなく、誰が責任を持って作ったか不明。 | 「出席取締役全員の記名押印(または電子署名)」 | 【改ざんの疑い】 署名がない議事録は証拠能力が著しく低く、訴訟や税務調査で「後から勝手に作った作文だろ?」と疑われます。 |
特に注意:税務調査での「役員賞与」の否認
税務署は、「役員報酬や退職金が適正なプロセスで決められたか」を厳しくチェックします。
もし取締役会議事録に「いつ、いくらに決定した」という明確な記載がなかったり、日付が辻褄の合わないものだった場合、**「それは経費(損金)として認めない」**と判断され、追徴課税されるリスクがあります。
法務の結論:
議事録は、書き方一つで数億円の損害賠償責任を回避できる唯一のツールです。
「議論の要約」をする必要はありません。**「決定事項」と「異議の有無」**を正確に残すことに集中してください。


