【上級編】「守り」から「攻め」の参謀へ。法務4年目以降に求められる経営視点と戦略的スキル

生成された画像の代替テキストは以下の通りです。 ``` 法務キャリアの「守り」から「攻め」への変革を示すインフォグラフィック。左側の「守りの法務」ではリスクから防御する様子、中央の「意識とスキルの進化」では経営視点・戦略的思考を持って階段を上る様子、右側の「攻めの参謀」では経営陣と共にM&Aや新規事業などのビジネス戦略を推進する様子がイラストで表現されている。タイトルは『【上級編】「守り」から「攻め」の参謀へ。法務5年目以降に求められる経営視点と戦略的スキル』。 ``` スキルアップGUIDE
弁護士町田北斗

ベンチャー起業の法務を専門とし、社内弁護士として企業の成長を法的側面から支えています。
当サイトでは、単なる事務処理ではない「経営に貢献できる法務」になるための実務ノウハウを公開。
契約書審査からIPO準備、労務戦略まで、現場で本当に役立つ「攻めと守りのリーガルビジネスマインド」をお伝えします。

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法務としてのキャリアも3年を超え、リーダーやマネージャー候補として期待されるフェーズに入ると、求められる役割は劇的に変化します。

これまでは「発生した事案をどう処理するか」という臨床法務が中心だったかもしれません。しかし、これからは「いかに問題を発生させないか」「法的知見をどう経営戦略に組み込むか」という予防法務・戦略法務の視点が不可欠です。

今回は、組織の「要」となり、経営陣から信頼される法務リーダーになるために必要な3つの高度なスキルについて解説します。


1. 「法的な正しさ」を「経営判断」へ変換する翻訳力

経営陣へのレポーティングにおいて、「法律上、〇〇条に抵触する可能性があります」と伝えるだけでは不十分です。経営者が知りたいのは、法律論そのものではなく、**「で、ビジネスにどう影響するの?」**という点だからです。

上級法務には、法的リスクを経営上のリスク言語に変換する「翻訳スキル」が求められます。

  • 金額的影響の試算: 「最大で〇〇億円の課徴金リスクがある」
  • レピュテーションリスク: 「違法性はグレーだが、炎上すればブランド毀損により売上が〇%ダウンする恐れがある」
  • 代替案の提示: 「A案は法的にNGだが、B案のスキームなら目的を8割達成しつつ適法に行える」

このように、リスクとリターンを天秤にかけられる材料を提供し、経営陣の意思決定を支援することこそが、法務責任者の役割です。

【対比表】「法務スタッフの報告」vs「経営参謀の翻訳」

シチュエーション× ただの法的報告(判断を経営者に丸投げ)◎ 経営判断への翻訳(意思決定を支援)翻訳のロジック(単位の変換)
独占禁止法・
下請法リスク
(コンプライアンス)
「この取引条件は、独占禁止法第〇条の『優越的地位の濫用』に該当する法的リスクがあります
→ 「リスクがある」だけでは、経営者は止めるべきか進むべきか判断できない。
「この条件で強行した場合、公取委から**『売上の10%(約5億円)』の課徴金**が課される可能性があります。この利益のために5億円のリスクを負いますか?【法律 → お金】
「違法性」という曖昧な言葉を、「課徴金額(PLへのインパクト)」に変換し、損得勘定の天秤に乗せる。
グレーゾーンの
新規事業
(レピュテーション)
「明確な違法ではありませんが、法的にはグレーです。倫理的に問題があるかもしれません
→ 精神論に聞こえてしまい、イケイケな経営者には響かない。
「法的には白に近いですが、世論が反応して炎上した場合、**主要取引先A社との契約解除(売上20%ダウン)**に繋がる恐れがあります。法的勝敗よりもビジネスダメージが甚大です【適法性 → 信用・売上】
裁判で勝てるかどうかではなく、「ブランド毀損による売上ダウン」という実利の損失を突きつける。
法規制の壁
(ストッパー案件)
「銀行法に抵触するため、今のスキームではローンチできません(NGです)
→ 結論だけ伝えて、ビジネスを止めてしまう。
「A案(直販)は違法ですが、銀行と提携するB案なら適法です。利益率は5%下がりますが、ローンチ時期は守れます。A案で法改正を待つか、B案で進めるか、ご判断ください」【可否 → 代替案と選択肢】
0か100かではなく、「利益率」や「スケジュール」というトレードオフの条件を提示し、経営者に選ばせる。

解説:経営者の「脳内言語」に合わせる

経営者は常に「リターン(利益)」と「リスク(損失)」の方程式を頭の中で解いています。

法務の役割は、この方程式の「リスク」の項に、正確な数字や係数を代入してあげることです。

  • 「違法です」= 判断不能
  • 「5億円の損失可能性があります」= 判断可能(やめておこう)
  • 「違法ですが、罰金は10万円です」= 判断可能(リスクを取って進もう、という判断もあり得る)

このように、法律用語を「経営判断できる単位」に翻訳して渡すことこそが、経営層から信頼される法務の真髄です。


2. 組織を強くする「仕組み化」と「予防法務」

優秀なプレーヤーほど、個別の案件対応に忙殺されがちです。しかし、リーダーの仕事は、自分がいなくても回る仕組みを作ることです。

  • 契約書ひな形のブラッシュアップ: 交渉頻度の高い条項をあらかじめ有利、または妥協可能な形に修正し、レビュー工数を削減する。
  • 社内規程の整備: 曖昧なルールを明確化し、現場の迷いをなくす。
  • 社内コンプライアンス研修: 現場社員のリテラシーを高め、トラブルの種を未然に摘む。

火消し(トラブル対応)がうまいだけでなく、「火事を起こさない防火対策」を組織全体に実装できるかどうかが、マネジメントとしての腕の見せ所です。

【対比表】「個人の力で戦う法務」vs「仕組みで勝つ法務」

テーマ× 忙しいプレーヤー法務(属人的・対症療法)◎ 賢いリーダー法務(標準化・予防療法)組織への導入効果
契約書の
ひな形整備
(交渉コスト削減)
「毎回、相手方の修正案を見て、ゼロベースでカウンター案を考えている」
→ 毎回同じような議論に時間を費やす。
「過去に揉めた条項を分析し、**『ここは妥協してもいい』という譲歩案(フォールバック条項)をひな形にセットしておく」
→ 経験の浅い部員でも、交渉の落としどころが即座に分かる。
【交渉の高速化】
「どこまで譲っていいか」の基準が明確になり、法務確認の往復回数が激減する。
社内規程・
ルール策定
(現場の迷い除去)
「『これ経費になりますか?』『押印申請はどうやるの?』という質問に、チャットで都度回答している」
→ 法務が「人間辞書」になって疲弊する。
「質問が多い項目は規程を改定して明確化し、フローチャート付きの『5分でわかるマニュアル』を公開する」
→ 現場が自分で答えに辿り着けるようにする。
【自走する組織】
曖昧な「グレーゾーン」を減らすことで、現場が法務の顔色を伺わずに意思決定できるようになる。
コンプライアンス
研修
(リテラシー向上)
「トラブルが起きてから、『なぜ確認しなかったんだ』と事後的に注意する」
→ 常にモグラ叩きの状態。
「実際にあったヒヤリハット事例を元に、『ここだけ気をつければOK』というポイント**を絞って定期研修を行う」
→ **『トラブルの種』**を現場レベルで発見させる。
【予防ワクチンの接種】
「これをやったらヤバい」という勘所を現場に植え付けることで、致命的な事故を未然に防ぐ。

解説:評価されにくい「予防」こそが最大の貢献

「トラブルを解決しました!」という報告は目立ち、英雄視されやすいです。

一方で、「仕組みを整えたので、今月はトラブルが0件でした」という成果は、派手さがなく評価されにくい側面があります。

しかし、経営者にとって本当にありがたいのは後者です。

**「私の仕事は、法務の仕事をなくすことです」**と言えるくらい、予防と自動化に注力できる人が、真の法務組織のリーダーです。


3. 成長を加速させるファイナンス・IPO実務

特にベンチャー企業の法務リーダーを目指す場合、会社の成長ステージ(フェーズ)に直結した高度な実務知識は最強の武器になります。

  • 資金調達(エクイティ・デット): 投資契約書のレビューや、種類株式の設計など、経営の根幹に関わる実務。
  • ストックオプション(SO)設計: 人材採用戦略とリンクしたインセンティブ設計。
  • IPO準備と内部統制: 上場審査に耐えうるガバナンス体制の構築(J-SOX対応など)。

これらは、顧問弁護士に丸投げするのではなく、社内法務が主体性を持ってリードすることで、IPOの成功率やスピード感が大きく変わります。まさに「経営のエンジン」としての法務の醍醐味です。

対比表】「事務屋としての法務」vs「CFOと対等に渡り合う法務」

テーマ・業務× ただの事務手続き(外部任せ・受け身)◎ 経営と連動した戦略法務(主体的・設計者)経営へのインパクト
資金調達
(エクイティ・デット)
「投資契約書の誤字脱字チェックを行い、条文の整合性を確認しました
→ 形式的なレビューに留まる。
「今回の出資条件(種類株式)だと、将来のExit時に創業者の取り分が減りすぎます。**『優先分配権』の倍率を1.0倍に下げるようVCと交渉しましょう」【創業者利益の防衛】
資本政策は不可逆(後戻りできない)です。法務が将来の希薄化リスクを読み解き、経営権を守る砦となります。
ストックオプション
(SO設計)
「SOの発行決議に必要な株主総会議事録を作成しました**」
→ 手続きをミスなくこなすだけ。
「今の採用計画なら、行使価額が高くならないように**『税制適格SO』の枠を確保しつつ、外部協力者向けには『信託型(または有償)』**を組み合わせるスキームにしませんか?」【採用力の強化】
SOは単なる報酬ではなく「採用兵器」です。税制メリットや付与タイミングまで設計することで、優秀な人材を獲得できます。
IPO準備・内部統制
(J-SOX / N-2期)
「監査法人の指摘通りに、大企業並みの厳格な社内規程を整備しました
→ ルールでがんじがらめになり、事業スピードが死ぬ。
「監査法人はこう言っていますが、今のフェーズでそこまでやると現場が止まります。リスクベースで承認フローを簡素化し、最低限の統制でクリアするロジックを私が説明します」【スピードと規律の両立】
「上場審査に通ること」と「会社が成長し続けること」のバランスを取れるのは、現場を知る社内法務だけです。

解説:法務は「キャップテーブル(株主名簿)」に責任を持て

ファイナンス実務において、法務はCFO(最高財務責任者)の良きパートナーであるべきです。

CFOが「いくら調達するか(数字)」を考えるなら、法務は「どんな条件で調達するか(契約)」を考えます。

  • 「この条項を入れると、次のラウンドで投資家が入りにくくなります」
  • 「このSO設計だと、従業員の税金が高くなりすぎてインセンティブになりません」

このように、数字の裏側にある「契約による拘束」や「制度設計の欠陥」を指摘できる法務担当者は、ベンチャー経営において代えの効かない存在となります。


まとめ:経営者と同じ景色を見る

  1. 法的リスクを経営リスクへ「翻訳」し、意思決定を支える
  2. 属人化を排し、リスクを未然に防ぐ「仕組み」を作る
  3. ファイナンスやIPO実務で、企業の「成長」を牽引する

4年目以降の法務パーソンは、もはや管理部門のイチ担当者ではありません。 法務という専門性を武器に、経営陣と同じ景色を見て、事業の成長と安全を両立させる「経営の参謀」としてのキャリアがここから始まります。

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