【弁護士監修】能力不足・ミスを繰り返す社員は解雇できる?法的に正しい4つの対応ステップ

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弁護士町田北斗

ベンチャー起業の法務を専門とし、社内弁護士として企業の成長を法的側面から支えています。
当サイトでは、単なる事務処理ではない「経営に貢献できる法務」になるための実務ノウハウを公開。
契約書審査からIPO準備、労務戦略まで、現場で本当に役立つ「攻めと守りのリーガルビジネスマインド」をお伝えします。

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「何度注意しても同じミスを繰り返す」
「基本的な業務能力が著しく不足している」

成長スピードが早い組織において、パフォーマンスの低い社員の存在は、単なるコスト以上の悪影響(周囲の士気低下や教育工数の増大)を及ぼします。

しかし、日本の労働法において「能力不足」を理由とした解雇は、極めてハードルが高いのが現実です。
感情に任せて「明日から来なくていい」と言ってしまえば、逆に会社側が不当解雇で訴えられ、敗訴するリスクがあります。

本記事では、企業法務を専門とする弁護士の視点から、能力不足の社員に対して会社がとるべき「法的に正しい対応プロセス」を解説します。


1. なぜ「能力不足」での解雇は難しいのか

日本の労働契約法第16条では、解雇について厳格なルールが定められています。

(解雇) 解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。

つまり、会社側が「能力がない」と感じていても、裁判所が「それは解雇するほど重大な理由ではない(教育で改善できるはずだ)」と判断すれば、解雇は無効となります。

特に能力不足の場合、一度や二度のミスで解雇が認められることはまずありません。
会社側には、解雇を選択する前に**「十分な教育・指導を行ったか」「配置転換などで回避努力をしたか」**というプロセスが求められます。

【比較表】能力不足解雇の「有効・無効」境界線

裁判例や実務上の判断基準をもとに、よくあるケースを比較表にまとめました。

左側のような対応をしている企業は、解雇無効のリスクが極めて高くなります。

比較項目× 解雇が「無効」になりやすいケース○ 解雇が「有効」と判断されうるケース(会社側の勝ち筋)
採用形態新卒・未経験採用
ポテンシャル採用の場合、会社側の教育義務が強く求められる。
即戦力・高度専門職採用
「特定のスキルがあること」を条件に高額報酬でヘッドハンティングされた場合、能力不足の判断は厳しくなる。
能力不足の程度平均よりやや劣る程度
「他の社員より仕事が遅い」「ミスが散見される」レベルでは不十分。
業務遂行が著しく困難
基本的な業務が全くできない、重大なミスを繰り返し会社に損害を与えているレベル。
改善指導の有無抽象的な注意のみ
「もっと頑張れ」「やる気を出せ」等の精神論や、口頭注意のみで記録がない。
具体的な指導と記録
具体的な課題を指摘し、達成すべき目標を設定(PIP等)した上で、定期的な面談を実施し、議事録を残している。
配置転換の検討検討していない
今の部署でダメだから即解雇、という短絡的な判断。
他部署への異動を試みた
営業がダメなら事務へ、など配置転換や降格を行い、それでも改善が見られなかった。
本人の態度改善意欲がある
能力は低いが、真面目に努力している姿勢が見られる。
改善意欲がない・反抗的
指導に従わない、自身の能力不足を認めない、会社批判を繰り返すなど、信頼関係が破壊されている。

2. 解雇の無効リスクを低下させる「4つの対応ステップ」

リスクを最小限に抑え、かつ組織の健全性を保つためには、以下のステップを順に踏む必要があります。これは将来的に紛争になった際、会社を守るための証拠作りでもあります。

① 具体的な指導と記録化(注意指導)

「もっとちゃんとしろ」といった精神論ではなく、具体的な業務改善命令を行います。 重要なのは、「いつ、誰が、どのような指導を行い、その結果どうだったか」をメールや書面で残すことです。口頭注意だけでは、裁判になった際に「指導を受けた覚えはない」と言われてしまいます。

  • POINT: 業務日報でのフィードバックや、改善計画書(PIP)の策定が有効です。

② 軽微な懲戒処分の検討

指導を繰り返しても改善が見られない、あるいは指示に従わない場合は、就業規則に基づいた軽微な懲戒処分(戒告・譴責など)を検討します。 これにより、会社として「この問題を深刻に捉えている」という意思表示を明確にします。 ※就業規則に懲戒の種別と事由が明記されている必要があります。

③ 配置転換(部署異動)の検討

現在の部署で能力が発揮できない場合、他の部署や業務へ変更することで改善する余地がないかを検討します。 中小企業で「他に任せる仕事がない」という場合でも、職種変更や業務分担の見直しを検討したという経緯(検討した記録)が重要になります。

④ 退職勧奨(話し合いによる合意退職)

解雇は会社側からの一方的な通告ですが、「退職勧奨」はあくまで「退職してくれないか」というお願いです。実務上、解雇に踏み切る前に、この退職勧奨によって合意退職を目指すケースが最も一般的です。

「あなたの適性はここにはないかもしれない」「他社で力を発揮したほうが幸せではないか」と誠実に話し合い、納得の上で退職届を提出してもらえれば、法的リスクは大幅に下がります。 ただし、執拗な退職勧奨は「退職強要」として違法(不法行為)となるため注意が必要です。

【図解】対応ステップと実務上の具体例

ステップ目的・ポイント【重要】具体的なアクション・証拠の例
① 具体的な指導と
記録化
「注意指導」
精神論ではなく具体的な改善命令を出す。
いつ・誰が・何を指導したか記録する。
●業務改善計画書(PIP)の策定
「来月末までにミスの件数を○件以内にする」等の数値目標を設定し、週1回の進捗面談を実施。
※メールや日報の返信履歴も重要な証拠になります。
② 軽微な懲戒処分
の検討
「警告」
口頭注意で改善しない場合、就業規則に基づき処分を行うことで、事態の深刻さを本人に伝える。
●始末書の提出・譴責(けんせき)処分
就業規則の該当条項(例:正当な理由なく業務指示に従わないとき)を明示し、書面にて処分を通知する。
※注意:就業規則に根拠規定が必要です。
③ 配置転換
(部署異動)
「回避努力」
能力不足が「現在の職務」に限られる可能性を考慮し、他の業務で適合するかを試す。
●他部署への異動・業務変更
営業職から事務職へ、または担当顧客の変更など。
※中小企業で異動先がない場合でも、「業務分担の見直しを検討した」という会議議事録等を残すことが重要です。
④ 退職勧奨「合意退職」
解雇(一方的な通告)ではなく、話し合いによる円満な退職を目指す。
実務上、最も多くのケースで着地する地点。
●面談による提案・条件提示
「あなたの適性は他社にあるかもしれない」と誠実に伝える。
退職合意書を取り交わす。
※「辞めないと解雇するぞ」等の発言は強迫になるためNG。面談内容は録音またはメモに残す。

各ステップの補足解説

① 具体的な指導と記録化

裁判でよくあるのが、会社側は「何度も注意した」と主張し、社員側は「指導された覚えはない」と反論するケースです。これを防ぐため、口頭だけで済ませず、必ずメールやチャット、書面などの**「形に残る方法」**で指導履歴を保存してください。

④ 退職勧奨(話し合いによる合意退職)

解雇のハードルは極めて高いですが、退職勧奨に応じてもらうことは法的に問題ありません。会社都合としての処理や、解決金(給与の数ヶ月分など)の提示を行うことで、双方が納得して雇用契約を終了させるのが、リスク管理上は最善策と言えます。


3. それでも改善しない場合の「普通解雇」

上記のステップ(指導・配置転換・退職勧奨)を尽くしてもなお、改善の見込みがなく、業務に重大な支障が出ている場合に初めて「普通解雇」の有効性が認められる可能性が出てきます。

懲戒解雇(横領や重大な経歴詐称などへの制裁)とは異なり、能力不足は通常「普通解雇」として扱われます。この場合でも、30日前の解雇予告、または解雇予告手当の支払いが必要です。

【図解】能力不足による「普通解雇」の実務と懲戒解雇との違い

項目普通解雇(本記事のケース)懲戒解雇(参考比較)
対象となる事由能力不足、勤務態度不良、協調性の欠如
「何度教えてもミスをする」「成績が著しく低い」など、契約通りの労働が提供できない場合。
規律違反、犯罪行為
「横領」「長期の無断欠勤」「重大な経歴詐称」など、企業秩序を著しく乱す行為。
解雇予告・手当【原則必須】
30日以上前に解雇予告をする。
② 予告しない場合は**解雇予告手当(30日分以上の平均賃金)**を支払う。
※①と②を併用して短縮することも可能。
【不要なケースが多い】
所轄の労働基準監督署長の認定(除外認定)を受ければ、即時解雇・手当なしが可能。
※認定がない場合は手当が必要。
退職金【原則支給】
就業規則(退職金規程)に基づき、会社都合退職として支給するのが一般的。
【不支給・減額が可能】
就業規則に「懲戒解雇の場合は支給しない」旨の定めがあれば、不支給が可能。
実務上の具体例アクション例:
1月31日付で解雇する場合、遅くとも1月1日までに「解雇予告通知書」を手渡す。
即日(1月1日)辞めさせる場合は、給与1ヶ月分相当の手当を支払い、領収証を受け取る。
アクション例:
社内調査で横領が発覚し、本人への弁明の機会を与えた上で、懲戒委員会を経て即時解雇を通告する。

実務上の注意点:解雇予告手当について

能力不足による解雇であっても、労働基準法第20条に基づき、会社は社員の生活保障として**「解雇予告手当」**を支払う義務があります。「仕事ができないのだから払いたくない」という感情論は通用せず、未払いは労働基準法違反(6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金)となります。

  • 即時解雇の場合: 解雇と同時に、30日分以上の平均賃金を支払う。
  • 予告解雇の場合: 「◯月◯日をもって解雇します」と30日以上前に通知すれば、手当の支払いは不要。

【表:裁判所が「解雇やむなし」と判断した裁判例5選】完全合法〇

事件名(判決年)解雇理由・背景判決の決め手(なぜ有効とされたか)
外資系金融情報会社の事例(東京高裁 2013年)年収約2,000万円の高給で中途採用されたが、業績が低迷。**PIP(業務改善計画)を実施しても改善しなかった。【高度専門職の特例】
高額な給与と引き換えに高い成果を求められる地位(管理職・専門職)の場合、「能力不足の判断基準は厳しくてもよい」とされた。PIPによる客観的な目標未達の証拠が重視された。
② 製薬会社の事例
(名古屋高裁 2006年)
MR(営業職)として24年間勤務。営業成績が5年以上連続で最下位クラス**であり、上司の同行指導や警告を行っても改善が見られなかった。【長期間の成績不良と指導実績】
単なる成績不振ではなく、「長期間(数年単位)」かつ「組織内での著しい低評価」が継続していたこと。会社が十分な教育的指導を行ったにもかかわらず、改善の余地がないと認定された。
米国自動車会社の事例
(東京高裁 1984年)
特定の職務能力(経理・財務)を見込んで中途採用された管理職。しかし、期待された能力が著しく欠如しており、業務に支障を来たした。【職種限定採用の合意】
「何でもやる」メンバーシップ型雇用とは異なり、「特定のスキルがある」という前提で採用された場合、その能力が欠けていれば、配置転換(他部署への異動)の努力義務は軽減されると判断された。
ヘリコプター運航会社の事例
(東京地裁 2016年)
協調性がなく、上司への反抗的な態度や、同僚への誹謗中傷を繰り返した。指導しても反省の色がなかった。【組織の秩序維持】
能力だけでなく、**「企業秩序を乱す言動(協調性の欠如)」も解雇理由になり得る。ただし、一度のトラブルではなく、反復継続した事実と、改善指導を無視した態度が決め手となった。
⑤ web関連企業の事例
(東京地裁 2012年)
度重なる遅刻や無断欠勤に加え、業務命令に従わない態度を繰り返した。会社は何度も注意書を交付したが、改善されなかった。【注意指導の累積】
「注意書」や「始末書」という形で指導の履歴が文書で残っていた**ことが勝因。裁判所は「これ以上、雇用を継続することは会社にとって過度な負担である」と認めた。

4. 経営者がやってはいけないNG行動

焦るあまり、以下のような行動をとると、会社側が圧倒的に不利になります。

  • パワハラまがいの指導: 大声で怒鳴る、人格を否定する発言は、逆に損害賠償請求の対象になります。
  • 「明日から来るな」と即日解雇: 解雇予告手当の不払いという労働基準法違反になるだけでなく、解雇自体が無効になる可能性が高いです。
  • 追い出し部屋への配置: 仕事を与えない、隔離するといった行為も違法性が高いです。

【図解】会社を危険にさらすNG対応と法的リスク

NG行動のタイプ【絶対禁止】具体的な言動・アクション例想定される法的リスク・代償
① パワハラまがいの
指導・叱責
「給料泥棒」「辞めてしまえ」「役立たず」
・人格を否定する暴言を吐く。
・他の社員の前で長時間大声で叱責する。
・机を叩く、椅子を蹴るなどの威嚇行為。
損害賠償請求(慰謝料)
指導の域を超えた違法な「パワーハラスメント」と認定され、会社と個人に賠償命令が出る。
また、この状況下での退職は「会社都合」扱いとなる。
② 手続き無視の
「即日解雇」
「明日からもう来なくていい」
・解雇予告手当(30日分)を支払わずに、その場でクビを言い渡す。
・「試用期間中だから解雇は自由だ」と誤解して即時解雇する。
労働基準法違反 + バックペイ(賃金遡及支払)
手当の不払いは労基署の是正勧告対象。
さらに解雇自体が「無効」と判定された場合、解雇日に遡って解決までの期間(数ヶ月〜年単位)の給与全額の支払いを命じられる。
③ 追い出し部屋・
兵糧攻め
「仕事を取り上げる・隔離する」
・業務を与えず、一日中シュレッダー係や清掃のみをさせる。
・デスクを廊下や別室に隔離する(いわゆる追い出し部屋)。
・合理性のない大幅な減給や降格を行う。
人事権の濫用・不法行為
自主退職に追い込むための嫌がらせ(退職強要)とみなされ、違法。
精神的苦痛を理由とした慰謝料請求や、元の業務への復帰命令が出るリスクがある。

なぜNG行動が「命取り」になるのか

日本の労働裁判では、**「手続きの適正さ」**が非常に重視されます。

たとえ社員の能力不足が事実であっても、会社側が上記のような不法行為(パワハラや不当な配置転換)を行っていれば、裁判官の心証は最悪になります。結果として、「能力不足による解雇の有効性」以前の問題として、会社側の違法性が問われ、多額の和解金や解決金を支払う羽目になります。

感情的に動く前に、必ず「その対応は法的にクリーンか?」を立ち止まって考える必要があります。


まとめ:法務の整備は企業の守り刀

能力不足の社員への対応は、一足飛びには解決できません。地道な指導と記録の積み重ねこそが、結果として会社を守り、他の社員が納得して働ける環境作りにつながります。

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