【弁護士解説】「種類株式」は難しくない。ベンチャーの資金調達と事業承継を救う、法務の切り札

alt="記事「【弁護士解説】「種類株式」は難しくない。ベンチャーの資金調達と事業承継を救う、法務の切り札」のアイキャッチ画像。スーツを着た弁護士が「種類株式」と書かれた光るカードを切り札として掲げ、左側にはロケットとドル袋(資金調達)、右側にはバトンを渡す手とビル(事業承継)が描かれているイラスト。背景には歯車や回路基板があり、ビジネスを加速させる法務戦略を表現している。" ベンチャー法務とは
弁護士町田北斗

ベンチャー起業の法務を専門とし、社内弁護士として企業の成長を法的側面から支えています。
当サイトでは、単なる事務処理ではない「経営に貢献できる法務」になるための実務ノウハウを公開。
契約書審査からIPO準備、労務戦略まで、現場で本当に役立つ「攻めと守りのリーガルビジネスマインド」をお伝えします。

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「株式と言えば、普通株式のことでしょう?」

もし経営陣がそう思っているなら、法務担当者であるあなたの出番です。
会社法が認める「種類株式」を使いこなせれば、資金調達を有利に進めたり、カリスマ社長引退後の経営混乱を防いだりすることができます。

種類株式の発行は、登記や定款変更が複雑で、事務作業としては「面倒くさい」部類に入ります。しかし、ここを制する者は資本政策(キャピタル・ポリシー)を制します。
今回は、実務で頻出する活用パターンと、絶対に踏んではいけない「地雷」について解説します。

資本政策とは、企業の成長に必要な資金をどのように調達し、株主構成をどう設計するかという**「会社の将来図」**のことです。

具体的には、創業からIPO(新規上場)やM&A(バイアウト)までの各段階で、「誰に」「いくらで」「どの程度の株式を割り当てるか」を計画します。ここで最も重要なのが、「資金調達(財務)」と「経営権の維持(支配権)」のバランスです。

株式を放出しすぎると経営の自由度を失い、逆に固執しすぎると成長資金が不足します。資本政策は一度実行すると後戻り(修正)が極めて困難なため、創業初期から出口戦略を見据えた慎重な設計が不可欠です。

▼ 【図解】資本政策のロードマップ(一般的なIPOの例)◎

ベンチャー企業が成長に伴い、どのように株式を放出し、資金を調達していくかの目安です。

フェーズ会社の状態主な引受先(誰に)調達目的(何のために)創業陣の持株比率目安
創業期
(シード)
プロダクト開発前創業者
エンジェル投資家
会社設立
試作品開発
80〜100%
(支配権の確立)
成長初期
(シリーズA)
事業モデル確立ベンチャーキャピタル
(VC)
人材採用
マーケティング
60〜70%
(過半数を維持)
拡大期
(シリーズB以降)
黒字化・規模拡大大手VC
事業会社(CVC)
設備投資
M&A資金
40〜50%
(外部資本の活用)
IPO
(上場)
社会的信用の獲得一般投資家
機関投資家
さらなる成長
創業者の利益確定
30%〜
(安定株主として残る)

▼ 【注意】資本政策の失敗ケース(後戻りできない例)×

資本政策の設計を誤ると、以下のような致命的な問題が発生します。

失敗ケース具体的な状況発生する深刻な問題
株式の放出すぎ創業初期に、安易に**30〜40%の株式をエンジェル投資家に渡してしまった。次のラウンドでVCが入る余地がなくなり、資金調達が詰む(上場不可)。
持株比率の低下度重なる増資で、経営陣の比率が1/3以下**になってしまった。株主総会での拒否権(特別決議)を失い、社長解任のリスクに晒される。
デッド・エクイティ創業メンバー(50%保有)が、喧嘩別れして株を持ったまま退職した。働いていない部外者が大株主として残り、新たな投資家が出資を嫌がる

1. そもそも種類株式とは?(普通株式との違い)

通常、株式は「1株=1議決権=配当も平等」です。これが「普通株式」です。 しかし、ビジネスの現場では、**「お金は出すけど口は出したくない」人や、逆に「株は少ししか持っていないけど、重要事項の拒否権は持ちたい」**人など、様々なニーズがあります。

これに応えるために、権利の内容をカスタマイズした株式が「種類株式」です。 いわば、吊るしのスーツ(普通株式)ではなく、オーダーメイドのスーツ(種類株式)を仕立てるようなものです。

2. 実務で使われる「3大パターン」

種類株式には9つの権利内容がありますが、ベンチャー・中小企業法務でおさえるべきは以下の3つのシーンです。

  • 資金調達時の優先株式の発行シーン
  • 事業の売却する際の株式発行シーン
  • 役員を迎える際に株式を発行するシーン

種類株式とは、普通株式とは異なる「特別な権利」や「制限」を付与された株式のことです。会社法では以下の9つの事項について、異なる定めを置くことが認められています。

権利の内容概要ベンチャー・中小企業での主な活用シーン
① 剰余金の配当普通株主より優先的に配当を受け取れる、または配当が少ない・全くない等の設定ができる。【資金調達】
投資家(VC等)に対して「優先株式」として発行し、インカムゲインを優遇する。
② 残余財産の分配会社が解散した際、残った財産を優先的に受け取れる権利。【投資家保護】
M&Aや解散時に、投資家が出資額を確実に回収できるよう設定する(優先分配権)。
③ 議決権の制限株主総会での議決権(投票権)の一部、または全部を制限する。【経営権維持】
「金は出すが口は出さない」スポンサー向けや、経営に関与しない親族への事業承継時に発行。
④ 譲渡制限株式を譲渡する際に、会社の承認が必要とする制限。【分散防止】
特定の種類株(従業員持株会用など)のみに譲渡制限をかけ、株式の社外流出を防ぐ。
⑤ 取得請求権
(プット・オプション)
株主が会社に対して「この株を買い取ってくれ」と請求できる権利。【出口戦略】
上場が実現しなかった場合などに、投資家が会社へ投資金の返還を求める手段として設定。
⑥ 取得条項
(コール・オプション)
一定の事由が発生した際、会社が株主から強制的に株式を買い上げることができる権利。【創業者保護】
役員・従業員が退職した際に、会社が株式を没収(回収)できるように設定する。
⑦ 全部取得条項株主総会の決議により、その種類の株式すべてを会社が取得できる権利。【組織再編】
100%減資やスクイーズアウト(少数株主の排除)、DES(債務の株式化)などの再生局面で利用。
⑧ 拒否権
(黄金株)
特定の重要事項(合併や役員選任など)について、この株主の同意がないと可決できない権利。【敵対的買収防衛】
創業社長や後継者が「黄金株」として1株だけ持ち、経営の重要事項への決定権を握り続ける。
⑨ 役員選任権種類株主総会において、取締役や監査役を選任できる権利。【経営監視】
VCなどの投資家が、自社の人間を確実に取締役に送り込むために設定する。

① ベンチャー企業の資金調達(優先株式)

ベンチャーキャピタル(VC)などの投資家に対して発行します。 投資家はリスクを取って出資金を出す代わりに、創業者よりも「優先的」な権利を欲しがります。

  • 配当・残余財産の優先: 会社が売却されたり解散したりした時、普通株主(創業者)より先に投資額を回収できる権利。
  • 取得請求権(転換権): 会社が上場(IPO)する際に、優先株式を普通株式に「変身」させて売却益を得る仕組み。

これらを組み合わせた「A種優先株式」「B種優先株式」などの設計図を描くのが、法務やCFOの役割です。

▼ 【図解】VC向け優先株式のパッケージ例(シリーズA等)

投資家にとっての「守り(損しない)」と「攻め(儲ける)」の両方の権利がセットになっています。

権利の種類具体的な内容投資家の狙い・メリット
残余財産の優先分配
(守りの権利)
会社がM&Aや解散をした際、普通株主(創業者)よりも**「先に」**投資額を回収できる権利。
(例: 会社が安値で売られても、投資した1億円は最低限確保する)
【元本確保】
事業がうまくいかなかった場合でも、投資した金額だけは可能な限り回収し、損失を防ぐため。
取得請求権
(攻めの権利)
会社が上場(IPO)する際などに、優先株式を**「普通株式に交換」**できる権利。
(例: 上場時は普通株に変えて市場で売り、大きな利益を得る)
【キャピタルゲイン】
上場時など株価が大きく上がった局面では、制限のある優先株ではなく、普通株として売却益を最大化するため。
優先配当権普通株主よりも優先的に、または多く配当を受け取れる権利。
(※ただしベンチャーの実務では配当を出さないことが多いため、形式的に定めることが多い)
【インカムゲイン】
基本的にはIPO狙いだが、万が一「上場せず高収益な中小企業」になった場合でも利益を得られるようにしておく。

▼ 【シミュレーション】「残余財産の優先」がある場合とない場合

例えば、VCが1億円を出資した後、会社が不調で5,000万円でM&A(会社売却)されたとします。

ケースお金の配分結果解説
普通株式の場合
(権利なし)
持株比率で山分け
VCの受取額:約500〜1,000万円
(大損をする)
投資家は持株比率(例:10〜20%)分しか貰えないため、投資額のほとんどを失います。
優先株式の場合
(権利あり)
投資家が総取り
VCの受取額:5,000万円
(損失を最小限に)
「創業者より先に回収する権利」があるため、売却額の全額を投資家が回収し、創業者の取り分は0円となります。

② 中小企業の事業承継(黄金株・無議決権株)

オーナー社長が後継者に会社を譲る際によく使われます。

  • 拒否権付種類株式(黄金株): たとえ1株しか持っていなくても、株主総会の重要決議(合併や役員の解任など)を「拒否」できる強力な株式。会長として院政を敷きたい場合や、後継者の暴走を止めたい場合に使います。
  • 議決権制限種類株式: 相続対策で株を分散させる際、経営に関与しない親族には「配当はあげるけど、議決権はない」株を渡すことで、経営の意思決定スピードを守ります。

▼ 【図解】事業承継での使い分け一覧

種類株式の名称主な対象者(誰が持つ)権利の特徴具体的な活用目的
拒否権付種類株式
(通称:黄金株)
先代社長
(会長・相談役)
株主総会の決議を
**「拒否」できる。
【後継者の暴走防止】
経営権のほとんどを後継者に譲りつつ、「合併」や「役員解任」など重要事項の決定権だけは先代が握り続け、睨みを効かせる。
議決権制限種類株式
(無議決権株)
経営に関与しない親族
(配偶者・次男等)
総会での議決権が
「ない」**。
※配当はもらえる
【経営権の集中】
自社株の資産価値(財産)は家族に公平に分け与えつつ、会社の意思決定権(議決権)だけは後継者一人に集中させる。

▼ 【ケーススタディ】こんなトラブルを回避できます

もし種類株式を使わずに「普通株式」だけで相続・承継を行った場合のリスクと、種類株式による解決例です。

ケース種類株式を使わない場合(普通株式のみ)種類株式を使った解決策
後継者の暴走後継者が社長になった途端、創業以来の古参役員を全員解任し、会社を私物化し始めたが、株を譲渡済みなので親父(先代)は止められない。【黄金株の発動】
先代が「黄金株」を行使して、役員の解任決議を**拒否(無効化)する。これにより会社の伝統や雇用を守ることができる。
兄弟間の対立
(遺留分対策)
兄(後継者)と弟(会社無関係)に株を半分ずつ相続させた。弟が株主総会でいちいち反対**し、経営が何も決まらなくなった。【無議決権株の活用】
兄には「議決権あり(普通株)」、弟には「議決権なし(種類株)」を相続させる。
弟は配当等の経済的利益は得られるが、経営の邪魔はできない。

③役員に発行する種類株式

取得条項付種類株式

ベンチャー企業が役員を迎える際、将来のトラブル(持ち逃げ)を防ぐために発行されるのが**「取得条項付種類株式」**です。
これは、いわゆる**「リバース・ベスティング」**という仕組みを導入するために利用されます。

1. なぜ「取得条項」を付けるのか?

普通株式をそのまま渡してしまうと、役員が入社後すぐに退職しても、株式を返還させる法的強制力を持たせることが困難だからです。
取得条項」を定款に定めておくことで、**会社側が一方的な意思表示で株式を強制的に買い戻す(没収する)**ことが可能になります。

2. 設計のポイント(トリガーと価格)

この種類株式の設計では、「どんな時に」「いくらで」会社が取り上げるかを細かく設定します。一般的には、退職理由(Good/Bad)によって条件を変える設計がなされます。

【表】取得条項付種類株式の設計例(リバース・ベスティング)

退職の区分具体的なシーン株式の取扱い(取得条項の発動)買取価格
会社にとって望ましくない退職● 入社から1年未満での自己都合退職
● 懲戒解雇、重大なコンプライアンス違反
● 競業他社への転職
**「全株」**を会社が強制取得する。「払込金額(取得原価)」
※利益が出ないようにする
② やむを得ない退職● 会社都合の解雇
● 病気や怪我による退任
● 死亡、任期満了による退任
在籍期間に応じて**「一部」**を取得、または取得条項を発動しない(そのまま持たせる)。**「時価」**または「公正な評価額」
※貢献度に応じたキャピタルゲインを認める
条件達成● 設定期間(例:4年)の経過
● IPO(上場)やM&Aの達成
取得条項そのものが消滅する。
(普通株式への転換、またはそのまま保有)

定款記載例

第○条(A種類株式の内容) 当会社が発行するA種類株式の内容は、次の各条に定めるところによる。

第○条(取得条項)

  1. 当会社は、A種類株式を有する株主が、当会社の取締役、監査役、執行役員および従業員のいずれの地位をも有しないこととなった場合(死亡した場合を含む。)、当会社の取締役会の決議によって、別に定める日をもって、当該株主の保有するA種類株式の全部または一部を取得することができる。
  2. 前項の規定により当会社がA種類株式を取得する場合の対価は、1株につき金○円(※発行時の払込金額等を指定)とする。
  3. 当会社は、第1項の事由が生じたA種類株式を有する株主から、当該事由が生じたことを証する書面の提出を求めることができる。
ポイント①:取得のトリガー(第1項)

「取締役等の地位を有しなくなった時」という条件を設定しています。 これにより、任期満了前の辞任や解任など、会社を去るタイミングで自動的に「会社の買取権」が発生します。 ※詳細な条件(Good Leaver / Bad Leaverの区別など)については、定款ではなく別途締結する「株式引受契約」や「株主間契約」で定義し、定款には「契約に定める事由が生じた場合」と記載するケースもあります。

ポイント②:取得対価の固定(第2項)

ここが最も重要です。取得対価を「時価」としてしまうと、会社が成長した後に買い戻す際、多額の現金(キャッシュアウト)が必要になります。 リバース・ベスティングの目的は「貢献していない期間の分の利益は渡さない」ことにあるため、一般的には**「発行時の払込金額(取得原価)」と同額**を設定し、キャピタルゲインが発生しないように設計します。

議決権制限種類株式

もう一つ、限定的ですが利用されるのが**「議決権制限種類株式」**です。

  • 目的: 「経済的利益(配当や売却益)は与えたいが、経営の意思決定(議決権)には関与させたくない」場合。
  • 利用シーン: 財務担当役員(CFO)や技術顧問(CTO)など、特定分野のスペシャリストだが、会社全体の経営方針には口を出してほしくないケース。あるいは、創業者の議決権比率(支配権)を希薄化させたくない場合に利用されます。

3. 法務担当者が気をつけるべき「3つの落とし穴」

種類株式は強力な武器ですが、設計ミスをすると会社が動かなくなります。特に以下の点は要注意です。

① 「種類株主総会」の排除を忘れるな

種類株式を発行すると、通常の株主総会とは別に、その種類の株主だけで行う「種類株主総会」が必要になるケースがあります(会社法322条)。 これを定款で適切に排除(あるいは制限)しておかないと、**「通常の総会では可決されたのに、一部の種類株主が反対したせいで否決された」**という事態が起こります。 特にIPOを目指す場合、ここの設計ミスは致命的です。

② 登記手続きの複雑さ

種類株式の内容は、すべて登記簿に記載されます。 条文の表現一つで法務局から「これでは登記できません」と補正を命じられることがあります。発行要項の作成段階で、司法書士や弁護士と綿密に連携する必要があります。

③ 投資家の権利が強すぎないか?

特にベンチャーの場合、資金欲しさに投資家の言いなりになって「強すぎる拒否権」や「有利すぎる転換価額」を設定してしまうことがあります。 **「次のラウンド(資金調達)で新しい投資家が入ろうとした時、前の投資家の条件が邪魔になる」**ことはよくあります。法務は将来を見据えてブレーキを踏む役割も必要です。


4. まとめ:資本政策の「建築家」になろう

種類株式の発行実務は、会社法の中でも難易度の高い分野です。 しかし、だからこそ、これができる法務担当者は単なる「事務屋」ではなく、**経営戦略を実現する「建築家(アーキテクト)」**として評価されます。

「資金調達したい」「事業承継したい」という経営者の漠然とした要望に対し、 「それなら、こういう設計のB種株式を発行しましょう」と具体的なスキームを提案できる法務は、会社の至宝として重宝されるでしょう。

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