「法学部出身ではないけれど、企業法務に挑戦したい」
「営業や総務からキャリアチェンジしたい」
結論から言えば、未経験でも法務への転職は十分に可能です。
特にベンチャー企業では、法律の知識以上に「ビジネスを推進する力」が求められるからです。
ただし、実務経験がない以上、採用担当者は「ポテンシャル」を見ます。
そのため、完全未経験からの挑戦は**「20代」**がひとつの勝負の分かれ目になるのが現実です。30代以上の未経験者であっても、行政書士資格などの法律系の難関資格をもっていれば、チャンスは充分あります。
では、未経験者は何で勝負すべきでしょうか?
本記事では、未経験者がアピールするポイントとその方法について解説します。
1. 「ポータブルスキル」の棚卸し

法務の仕事は、法律を知っていることではありません。
社内の調整や、取引先との折衝が業務の大半を占めます。
そのため、異業種で培った以下のスキルは強力な武器になります。
※ただし、これらのスキルをそのままアピールするということではありません。アピール方法については後述します。
法務として転職しても、ベンチャー企業では、あらゆる仕事が舞い込みます。
給与計算、シフト管理、マニュアル作成・・・。
未経験者を採用する企業は、何を求めているか。
それは、次の三つです。
タスク処理能力(速さ×適度な正確さ)
ビジネスの現場では、1週間かけて完璧な100点の回答を出すよりも、**「30分で80点の回答」**を出せるスピード感が好まれます。特にベンチャー企業では状況が刻一刻と変わるため、ボールを持ち続けず、素早く打ち返す事務処理能力が必須です。
| タスクの内容 | × 評価されない行動(形式重視・遅い) | 〇 評価される行動(成果重視・速い) |
| ① 法務のタスク (NDAの審査) | 【てにをは警察】 「てにをは」や書式設定の修正にこだわり、回答に3日かける。 ➡ 結果: 商談の熱が冷め、ビジネスチャンスを逃す。 | 【論点集中】 「競合避止義務」など致命的な条項だけチェックし、30分で「他はOK」と返す。 ➡ 結果: 営業が即座に動け、最短で契約締結に至る。 |
| ② 総務のタスク (備品購入) | 【過剰な相見積もり】 数千円のモニター購入のために、稟議書を作成し、3社の見積もりを取って1週間かける。 ➡ 結果: 新入社員のPC環境が整わず、業務開始が遅れる。 | 【Amazon即決】 「予算内なら即購入OK」のルールで、Amazonで翌日配送手配する。 ➡ 結果: 翌日からフル稼働でき、社員の生産性が最大化する。 |
| ③ 経理のタスク (経費精算) | 【1円の不備で差し戻し】 領収書の軽微な貼り付けミスに対し、システム上で突き返し、修正されるまで月次決算を止める。 ➡ 結果: 経営陣への数字報告(試算表)が遅れる。 | 【チャットで解決】 Slackで「ここ間違ってますが、今回はこちらで修正しておきますね」と伝え、処理を進める。 ➡ 結果: 経営判断に必要な数字が、リアルタイムで共有される。 |
「自分の仕事の『正確さ』よりも、会社全体の『スピードと利益』を優先しているか」**という視点をもつことが重要です。(社内全体のタスクを減らす意識)
組織の和を保つコミュニケーション能力
法務は職務上、営業部門や開発チームの新しいアイデアに対し、ブレーキとなる「NO」を言わなければならない場面が多々あります。
しかし、ここで単に「法律上無理です」「コンプライアンス違反です」と冷たく突き放してしまえば、現場のモチベーションは下がり、法務への相談そのものが来なくなってしまいます。結果、組織の和(チームワーク)は崩壊します。
相手を不快にさせない言い回しと、対立せずに着地点を見つける「調整力」
「今の方法だとリスクが高いですが、ここの表現をこう変えれば実現可能です」
「契約書のこの条項だけ譲ってもらえれば、あとは営業さんの希望通りに進められます」
などのような対応を意識しましょう。
0or100で回答するのではなく、どうすればグレーにできるのかを、現場と一緒に考える。
このように、相手の「やりたいこと」を尊重しつつ、法的な安全策という**「着地点(代替案)」**を提示できるか。
「ブレーキを踏む人」ではなく「安全な道案内をする人」になれるかどうかが、採用の成否を分ける鍵となります。
これができる法務は多くありません。杓子定規な回答をする方がほとんどでしょう。
法務を募集する企業も、過去の法務担当者とあなたを比較しています。「私は、違います」とアピールするのは非常に効果的です。
テキストコミュニケーション能力(チャットスキル)
法務に限らず、スピード感のある企業において、必要不可欠なスキルといえるでしょう。
多くの企業がSlackやChatworkなどのチャットツールを使用しています。長文のメールのような堅苦しい文章ではなく、**「結論から簡潔に」「要点を絞って」**レスポンスする能力が求められます。
チャット上でのやり取りがスムーズであることは、「仕事ができる人」の必須条件です。
チャットも一度でタスクを完結できることが最も効率的です。
簡潔でありながら、「この場合はA、この場合であればB。〇〇を目指すのであれば、Aが良いと思います。」などのように、最小限のチャットのやり取りでタスク完了できるような工夫が必要です。
【具体例】未経験者が現場で評価される行動 vs 評価されない行動
企業が求めているのは「法律博士」ではありません。
以下のように、ビジネスのスピードを止めず、周囲と円滑に働ける**「実務能力」**です。
| 求められる要素 | 現場での具体的な行動(◯ 評価される) | 陥りがちな勘違い(× 評価されない) |
| タスク処理能力 (速さ・適度な正確さ) | 【60点でもまずは出す】 完璧さよりスピード重視。「方向性が合っているか確認したいので」と早めにラフ案を提出する。 【ツールの活用】 ゼロから考案せず、既存の契約書雛形や過去の類似案件をうまく流用して時間を短縮する。 | 【抱え込んで遅れる】 100点満点を目指して数日間悩み続け、その間レスポンスが途絶える。 【細部にこだわりすぎる】 大枠のビジネスリスクよりも、「てにをは」や細かすぎる書式設定に時間を使いすぎる。 |
| コミュニケーション (組織の和・調整力) | 【代替案の提示】 事業部の要望に対し、頭ごなしに否定せず「この方法なら法的にOKです」と解決策を一緒に考える。 【平易な言葉】 専門用語を使わず、「要するにこういうリスクです」と中学生でもわかる言葉で説明する。 | 【正論で論破】 「法律上無理です」「コンプラ違反です」と教科書的な正論だけをぶつけ、事業部のやる気を削ぐ。 【専門家然とする】 知りたての難解な法律用語を並べ立てて、「法務は特別」という態度をとり、現場との壁を作る。 |
2.【職種別】あなたの「過去のキャリア」を昇華してアピールせよ

1. 営業職出身の場合
強み:交渉のプロ、スピード感
営業職において「顧客との最前線」で培った感覚は、契約審査において「ビジネスを止めない」判断力に直結します。
| 求める要素 | アピール方法(自己PR例) |
| タスク処理 (速さ) | 「営業時代、月〇件の案件を同時並行で進めていました。法務でも、ボールを即座に打ち返すスピード感で、契約締結までのリードタイム短縮に貢献します。」 |
| 調整力 (組織の和) | 「顧客の無理難題に対し、ただ断るのではなく『この条件なら可能です』と**代替案を提示して着地点(落とし所)**を見つけてきました。法務でも事業部の要望を頭ごなしに否定せず、実現方法を模索します。」 |
| チャット | 「外出先からスマホで即レスポンスし、商談を進めてきました。結論から書く、要点を箇条書きにするなど、相手の時間を奪わない工夫をしています」 |
2. ITエンジニア出身の場合
強み:論理的思考、チャットネイティブ
IT系ベンチャー企業にとって、エンジニア出身の法務は「喉から手が出るほど欲しい」人材です。事業理解(技術理解)の深さと論理性が最大の武器です。
| 求める要素 | アピール方法(自己PR例) |
| タスク処理 (速さ・正確さ) | 「コードを書く際の論理的思考は、契約書の論理構成チェックと共通しています。また、業務効率化が得意なので、契約書管理ツールの導入やフローの自動化などで、社内全体の生産性を上げることができます。」 |
| 調整力 (組織の和) | 「技術的な要件定義を非エンジニアに説明してきた経験があります。法務でも、難解な法律用語を使わず、『開発の現場言葉』に翻訳してリスクを説明し、現場とスムーズに連携します。」 |
| チャット (テキスト) | 「SlackやJiraなどのチケット管理ツールでのコミュニケーションが日常でした。感情的にならず、事実とタスクをベースにした的確なテキストコミュニケーションには自信があります。」 |
3. 販売・サービス職出身の場合
強み:ホスピタリティ、マルチタスク
法務は社内向けの「サービス業」でもあります。
販売職で培った「相手の真意を先読みする力」は、現場からの法務相談を吸い上げるために非常に重要です。
| 求める要素 | アピール方法(自己PR例) |
| タスク処理 (速さ) | 「店舗では、接客・レジ・在庫管理など、突発的な事象に優先順位をつけて瞬時に対応してきました。法務でも、緊急度の高い案件を見極め、マルチタスクで素早く処理します。」 |
| 調整力 (組織の和) | 「法務部門は『怖くて相談しづらい』と思われがちですが、私は販売職で培った**『傾聴力』と『対応のソフトさ』**で、現場が早い段階で気軽に相談できる関係性を構築し、トラブルを未然に防ぎます。」 |
| チャット (テキスト) | 「日々の業務報告(日報)で、その日の売上や課題を**短時間で簡潔にまとめる訓練**をしてきました。チャットにおいても、読み手が状況を一目で把握できる報告・連絡を行います。」 |
3. 「学習意欲」の証明

「未経験ですが頑張ります」だけでは説得力がありません。
行政書士などの難関資格ではなくても、「ビジネス実務法務検定2級」を取得しておくと、最低限の基礎知識があることに加え、「本気で法務になりたい」という熱意(学習意欲)の客観的な証明になります。
「法務経験がない」ことを嘆くのではなく、「今持っているスキルをどう法務に活かせるか」という視点で、職務経歴書を磨いてみてください。
【具体例】採用担当者はここを見ている。「口先だけの熱意」vs「資格による証明」
面接官が確認したいのは「やる気」そのものではなく、そのやる気が**「入社後の活躍」**に結びつくかどうかです。資格の有無が、その評価をどう分けるかをご覧ください。
| アピール項目 | × 残念なアピール例(主観のみ・説得力不足) | 〇 評価されるアピール例(資格=客観的証明) |
| 学習意欲 (本気度) | 「法律に興味があります」 興味があると言いつつ、具体的な行動を起こしていない。 ⬇ 【面接官のホンネ】 「口では何とでも言える。仕事が忙しいと言い訳して勉強しないタイプかも。」 | 「ビジ法2級を取得しました」 現職の業務と並行して勉強時間を確保し、合格という結果を出した。 ⬇ 【面接官のホンネ】 「忙しい中でも自己研鑽できる行動力とタイムマネジメント能力がある人だ。」 |
| 基礎知識 (教育コスト) | 「入社してから勉強します」 会社に教えてもらう姿勢(受け身)。 ⬇ 【面接官のホンネ】 「ゼロから教える余裕はない。教育コストがかかりそうだ。」 | 「最低限の用語は理解しています」 民法や契約の基礎用語が頭に入っている状態でスタートできる。 ⬇ 【面接官のホンネ】 「OJTですぐに実務に入ってもらえそうだ。即戦力に近いポテンシャルがある。」 |
| 将来性 (キャリア観) | 「法務にかっこいいイメージがある」 憧れだけで、実務の地味さを理解していない懸念がある。 ⬇ 【面接官のホンネ】 「イメージとのギャップですぐ辞めてしまわないか心配だ。」 | 「実務検定を通じて体系的に学びました」 試験勉強を通じて、法務の守備範囲や難しさを理解した上で志望している。 ⬇ 【面接官のホンネ】 「業務への理解度が高い。長く活躍してくれる定着性の高い人材だ。」 |
まとめ
まずは、「企業が未経験者に求めるスキル」にかする程度でも良いので、ご自身の強み、スキルを洗い出してください。
それを、採用担当者の目にとまるよう昇華させることで採用のチャンスが高まります。
企業が未経験に求めるスキル



