近年、法律事務所から企業内弁護士(インハウスローヤー)への転身を目指す方が増えています。
しかし、採用面接で「弁護士としての職務経験(法律業務)」だけをアピールして、不採用になってしまうケースがあります。
なぜでしょうか?
それは、企業側が「弁護士=教科書的な正論ばかりで、ビジネスを止めてしまう人(ストッパー)」という懸念を抱いているからです。
インハウスへの転職を成功させるために必要なのは、経験以上に**「マインドセットの転換」**です。
1. 「先生」から「ビジネスパートナー」へ

法律事務所の仕事は、起きた紛争を解決する「事後処理」や、客観的なリスク指摘が中心になりがちです。
しかし、企業法務(特にベンチャー)で求められるのは、「どうすれば、適法にこのビジネスを実現できるか」を共に考える姿勢です。
「それは法律上NGです」と突き放すのではなく、「このスキームなら、法的リスクを回避しつつ目的を達成できます」と代案を出せるかどうかが問われます。
法律事務所とは別世界。ベンチャー法務への転職で直面する「3つのギャップ」
「企業内弁護士として、経営に近い場所で働きたい」
そう志してベンチャー企業へ飛び込んだ弁護士の多くが、入社直後に大きな衝撃を受けます。
法律事務所での「先生」としての働き方と、ベンチャー法務としての働き方は、根本的にルールが異なるからです。転職前に知っておくべき、決定的な3つの違いを解説します。
1. 「秘書・パラリーガル」はいない。泥臭い業務も全て自分で
法律事務所では当たり前だった、スケジュール調整、資料のコピー、誤字脱字の修正、請求書の発送。これらを行ってくれる秘書やパラリーガルは、ベンチャーにはいません。
「コピー用紙の補充から、契約書の製本、郵便局への投函まで、全て自分でやる」
これがベンチャーのリアルです。
高度な法的判断を行う一方で、総務的な雑務もこなす。
「私は弁護士だから」というプライドを捨て、チームのために泥臭い仕事も率先して拾う姿勢がなければ、ベンチャーでは信頼を得られません。
2. ボス弁はいない。あなたの意見が「会社の方針」となる
外部の顧問弁護士としての仕事は、あくまで「アドバイザー」です。
「A案とB案があり、それぞれリスクはこうです」と選択肢を提示し、最後に決めるのはクライアント(経営者)でした。
しかし、インハウスは違います。
CEOや事業部長から**「で、ウチはどうすべきなの?」「やっていいの?」**と、決断を迫られます。
そこでは「法的にはグレーです」という回答は望ましくありません。経営陣は、進んでよいのか判断できないからです。
「法的にはグレーですが、このスキームならリスクを許容範囲に抑えられるので、GOしましょう」と、当事者として意思決定に関与することがベスト回答です。
法律事務所では、ボス弁がアドバイスをくれたり、最終的な責任をとってくれましたが、社内弁護士にボス弁となる人は誰もいません。
その分、あなた自身のアイデアや判断で物事が進んでいくのです。
会社の方針そのものを作る責任感とプレッシャーは、インハウスならではの醍醐味です。
3. 圧倒的なスピード感。「検討して回答します」は通用しない
法律事務所では、リサーチを尽くし、推敲を重ねた完璧なメモランダムを数日後に納品することが誠実さとされました。
しかし、ベンチャーでは**「スピード=正義」です。
Slackで飛んできた相談に対し、「3日後に回答します」と言えば、その間にビジネスチャンスは消滅しています。
求められるのは、「60分以内に、60点の精度で即答する力」**です。
「現時点での感触ではOKですが、念のためここだけ確認させてください」といった、ビジネスの速度を殺さないレスポンス能力が必須となります。
【比較表】法律事務所弁護士 vs ベンチャー法務(インハウス)
この3つの違いを、実務レベルで比較表にまとめました。
| 比較項目 | 法律事務所の弁護士 | ベンチャー法務(インハウス) |
| サポート体制 | 【分業制】 秘書・パラリーガルが事務作業を完璧にサポート。 弁護士は「法律判断」に集中できる環境。 | 【自走力】 アシスタントは不在。 契約書の製本、発送、日程調整、備品発注まで**「何でも屋」**として動く。 |
| 立ち位置 | 【外部アドバイザー】 客観的なリスクを指摘し、選択肢を提示する「助言者」。 最終決定権はクライアントにある。 | 【内部の意思決定者】 「リスクはあるが、やる」という経営判断にコミットする。 あなたの意見がそのまま**「会社の方針」**になる。 |
| 時間感覚 | 【正確性重視】 文献調査を尽くし、100%正解に近い回答を文書で作成。 リードタイムは数日〜数週間。 | 【スピード重視】 ビジネスを止めないことが最優先。 チャットで**即レス・即断**が基本。 リードタイムは数分〜数時間。 |
2. 面接での決定打は「ビジネス感覚」

弁護士資格を持っている時点で、法律知識や職務経験があることは大前提です。
そこで差はつきません。
採用の決め手となるのは、**「事業成長への貢献意欲」**です。
なぜベンチャーは弁護士を欲しがるのか? 経営陣が期待する「3つの役割」
「顧問弁護士がいれば、社内には法学部卒のスタッフで十分ではないか?」
コスト意識の高いベンチャー経営者が、あえてコストの高い弁護士(インハウスローヤー)を採用するには、明確な理由があります。
彼らが求めているのは、ブレーキを踏む人ではなく、**「アクセルを全力で踏むために、ガードレールを整備してくれる人」**です。具体的には以下の3点です。
1. 新規事業の「適法ロジック」を構築する力(攻めの法務)
ベンチャーが挑む新領域(AI、ブロックチェーン、シェアリングエコノミーなど)は、法規制が追いついていない「グレーゾーン」であることが多々あります。
ここで顧問弁護士に相談すると、「判例がないのでリスクがあります」と保守的な回答が返ってきがちです。
しかし、社内の弁護士に求められるのは、「リスクがあるから止める」ではなく、
「現行法に抵触せずにこのビジネスを実現するには、どのようなスキーム(仕組み)を組めばよいか」
という解をひねり出すことです。法的な理論武装を行い、規制官庁と折衝してルールそのものを作っていく。この「事業創造パートナー」としての役割が最も期待されています。
2. IPO(上場)審査やVC対応における「圧倒的な信用力」
ベンチャー企業にとって、資金調達やIPOは生命線です。
投資家(VC)や証券会社、監査法人は、その会社の管理体制を厳しくチェックします。この時、責任者として「弁護士」が座っていることは、それだけで強力な信用担保になります。
「弁護士資格を持つCFOやCLO(最高法務責任者)がコンプライアンスを統括している」という事実は、投資家に対して「この会社はちゃんとしている」という安心感を与え、企業価値(バリュエーション)の向上や、スムーズな上場審査に直結します。
3. 外部コストの削減とスピードアップ
事業が拡大すると、契約書レビューやトラブル対応の数は膨大になります。これを全てタイムチャージ制(1時間3〜5万円)の外部事務所に依頼していると、コストが青天井になります。
優秀な弁護士を一人採用すれば、これらの日常業務を固定費(給与)の中で社内処理できるため、結果として大幅なコストカットになります。
また、社内にいれば、チャット一本で即座に相談・回答が完結するため、外部事務所とのメール往復で数日待たされるタイムロスもなくなります。
【比較表】経営者が「顧問弁護士」ではなく「社員弁護士」に求めるもの
| 項目 | 外部の顧問弁護士(アウトソーシング) | 社員としての弁護士(インハウス) |
| 期待する役割 | 【監査役・ブレーキ】 客観的な視点で、違法性がないかチェックする。 | 【共犯者・アクセル】 「どうすれば実現できるか」を経営陣と共に悩み、事業を作る。 |
| リスクへの態度 | 【リスク回避】 「やめた方がいいです」と安全策を提案する。 | 【リスク管理】 「ここまでのリスクなら許容して進もう」と経営判断を補佐する。 |
| 知識の深さ | 【法律のプロ】 法律知識は深いが、自社のプロダクトや業界慣習には詳しくない場合がある。 | 【自社のプロ】 法律知識に加え、自社の技術・サービス・社内政治まで熟知している。 |
| コスト感覚 | 【変動費】 相談すればするほど費用がかかるため、気軽に相談しにくい。 | 【固定費】 就業時間中であればいつでも相談できる。 |
あなたの強みを最大限アピールできれば、企業はあなたを「外部の先生」ではなく、共に戦う「ビジネスパートナー」として迎え入れてくれるはずです。
転職はゴールではない。「IPO経験」という最強の武器を手に入れろ
ベンチャー企業への転職、それは「法務責任者」として経営の中枢に飛び込むことを意味します。 そこで成し遂げるIPO(上場)やイグジットした経験は、あなたの弁護士人生において、二度と揺らぐことのない「唯一無二の武器」となるでしょう。
泥臭い実務と経営判断を乗り越えたその先には、圧倒的な選択肢が待っています。
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